朝早くから工場に行く。従業員はほとんどがβである。蘭の勤務態度は真面目だ。ただヒートで突然休むことが多く、その穴埋めを周りがしないといけないため、蘭はあまりよく思われていなかった。


「大黒さん、あとで部屋に来てくれ」

工場長に呼ばれた。
最近なにかミスをしただろうか。
Ωが昇給や昇格することは基本ない。
そのためΩの人間が呼ばれるということは悪いことがほとんどだ。
最悪退職しろなんて言われる可能性もある。
重い足取りで、部屋に入った。



工場長の隣には高身長で工場のユニフォームを着ていても隠しきれない均整のとれた体の男性が立っていた。ただ、体とは裏腹に重い髪型に厚い縁取りの眼鏡をかけており、髭がはえていた。

「大黒さん、この人の教育係を頼む。」

「えっ私がですか?」

「うん。よろしく頼んだよ。ヤマシロの別会社から出向できたようだ。」

工場長は冷たく言い放って部屋から出ていった。ヤマシロの子会社の中でも地位の低いこの工場に出向でやってきたということは、左遷された可能性が高い。
冴えない雰囲気も相まって、工場長はお荷物がやってきたと思ったのだろう。
仕事ができない部下の教育はいつ辞めてもらっても構わないΩの蘭に任したというわけだ。

残された部屋に気まずい雰囲気が流れる。

「はじめまして。大黒蘭です。よろしくお願いします。」

蘭は重い空気に耐えられず、明るい声色で挨拶をする。

「谷本和真です。よろしくお願いします。」

和真のことはパッと見、さえない印象だった。
しかし、挨拶された時、眼鏡の奥の切れ長の目に強い苛立ちを込めた意志のようなものを感じ、思わず目を逸らした。