あなたと運命の番になる

「今日は本当にありがとうございました。お疲れ様でした。」

蘭は深夜も過ぎた暗い道のりを歩いて帰ろうとする。
蘭の家は工場から歩いて15分ほどのところにある。

「私は車で来てるので、送ります。乗って下さい。」

「お気遣いありがとうございます。すぐ近くなので歩いて帰れます。」

そう言うと、蘭は歩き出す。

「待って、大黒さん。こんな夜道を女の子が1人で帰るのは危ないです。乗って下さい!」

和真は真剣な目で訴えてくる。

「1人で帰ります。」

蘭は和真の提案を断って、押し切る。

蘭は男の人と密室に2人は怖い。
夜道を1人で帰ることも苦手だが、まだましだ。

「俺と2人は怖かったしりますか?」

和真は先程からの蘭の震えやΩであることから、男性に恐怖心があるのではと思った。
Ωの女性が襲われたなんていうことは耳にしたことがある。

怖いが、正直に言うのは失礼な気がして蘭は言えない。

蘭の様子から図星だとわかる。

「大黒さん、俺は絶対怖がらせたりしません。」

背をかがめて、蘭の視線に合わせて、伝える。


「・・・怖いんです。男の人と狭い空間で2人になるの。谷本さんのことはいい人だって思ってます。だけど、ヒートが急に来たら・・・。」

蘭はヒートのことを常に恐れて生きている。
昔、ヒートが来てしまい、男性に襲われかけたことがある。そのトラウマで男性に対して恐怖心がある。

「そうだったんですね。何も知らないのにすみません。だけど、私もこんな夜中に1人で女の子を帰せません。帰路の間にヒートが来て、男性に襲われる可能性だってありますよね。ヒートが来てしまった時どうすれば良いか教えてもらっていたら、もし車内でヒートが起きた時対応できます。どうしたら、大黒さんにとって安心できるか教えて下さい。」

蘭は目を見開く。
今までもヒート大丈夫と声をかけてもらうことはあった。ただ対処法を聞かれることはほとんどない。
実際の対応方法知ってるのは母と親友の陽菜だけだ。

「ヒートが起こりそうになったら、まず薬を飲みます。
そして、母に連絡してもらえるとありがたいです。異性を誘惑してしまうので、離れてもらえると助かります・・・。すみません。」

「わかりました。じゃあお母さんの連絡先を教えてもらってもいいですか。あと、怖いと思いますから、薬は手で持っていていいですよ。水もすぐ飲めるようにしておいてください。ヒートがきそうになったら必ず言ってくださいね。私はそれを聞いたら出来るだけ早く車を停めて、外に出るようにしますから。」

和真の対応に信用できる人だなと思う。もちろんすぐ信頼出来るほど蘭の心は柔軟ではない。ただ、ここまで誠実に言ってもらえると安心できた。

「すみません、ややこしくて・・・。
よろしくお願いします。」

「全くややこしいなんて思ってませんから。むしろかわいいです!
さぁ乗って下さい!」

隣で緊張して座っている蘭に微笑む。
車がゆっくり進んだ。


「大黒さんはさ、なんの食べ物が好きなんですか?」

「えっ。」

緊張で他のことを考える余裕が全くなく、変な声が出てしまう。
すると隣から笑い声がする。

「ははは笑。大黒さん、緊張しすぎですよ。怖いとは思いますけど、大丈夫ですから。何もしませんよ。
でっ何が好きですか?」

「えーっと、肉じゃがが好きです。あとはショートケーキも好きです。」

「そうなんですね。美味しいですよね。最近ショートケーキとか肉じゃが食べてないです。コンビニ弁当ばっかりだし笑」

「谷本さんは何が好きなんですか?」


「俺はハンバーグとカレーです!もう大人なのに舌は子供なんです笑」

おちゃめに笑う和真に蘭も笑顔になった。

車だとあっという間に家に着く。

「ありがとうございました。」
蘭は深くお辞儀する。

「こちらこそ明日もよろしくお願いします。」
和真はそう言って帰っていった。