海と少女

よかった。

あんな大きなイカ、
気持悪くて、さばくどころか触ることすら出来ないよ。


男はまな板に
イカを乗せた。


「これ、新鮮だから刺身もおいしいよ。造っておこうか?」


「…お願いします」


そういや
信也は刺身が好きだったな。


魚屋の包丁を持つ腕はたくましく、みるみるうちにイカは解体された。


「はいよ、こっちが刺身、こっちが大根用ね」

「ありがとうございます」

「おねぇさん、どこから来たの?」


えっと、
どこって言えばいいのかな。

東京?

違う、ここに住んでるんだ。


「最近、こっちに越してきて…」


とたんに男の顔が曇った。