「あれ、姫ちゃん。今日は一人なの?」
後ろから声をかけられ振り向くと、このホテルのオーナーで慶智の王子の一人である九条仁さんが立っていた。なぜか彼は私のことを「姫ちゃん」と呼ぶ。
「あっ、仁さん、こんばんは。ケーキを買いに来ました。雅さんは食事会です」
「そうなんだ。外まで送るよ」
世間話をしながら入口へ向かう途中、前から来た長身でサングラスをかけた美人とぶつかりそうになったところを、仁さんに助けてもらった。
プラチナブロンドのストレートロングヘアに、黒いパンツスーツと黒い『ルブタン』のハイヒール、そして真っ赤な口紅が印象的な、まるでモデルのような女性だ。
すれ違った瞬間、思わず立ち止まって振り返った。
間違いない。
あの甘い香りだ。
立ち尽くして彼女を目で追うと、エスカレーターのところに雅さんが--。
彼女は雅さんに抱きつき、恋人のように親密な様子で腕を組み、そのままエスカレーターで上へ消えていった。
一連の流れを一緒に見ていた仁さんに、震える声で尋ねた。
「……じ、仁さん。あの方が田島ペーパーの副社長さんですか?」
--お願い、「そうだ」と言って!
「……ごめん、違う」
言いにくそうに、仁さんが教えてくれた。
「姫ちゃん、少し休んだ方がいいよ。そこの喫茶室でも、俺のオフィスでも」
長身の仁さんが少し前かがみになり、申し訳なさそうで心配そうな表情で私を見つめている。よほどひどい顔をしているのだろう。
頭の中が真っ白になり、胃がギュッと締めつけられた。何も考えられず、後ずさりしながら小さく首を横に振るのが精一杯だった。周囲の喧騒が反響しているように聞こえ、仁さんが話しかけてくれているのに、何を言っているのか全く分からない。
踵を返して走り、外に出てタクシーを捕まえた。行き先は銀座。バックミラーには、小さくなっていく仁さんの姿を映しながら。
後ろから声をかけられ振り向くと、このホテルのオーナーで慶智の王子の一人である九条仁さんが立っていた。なぜか彼は私のことを「姫ちゃん」と呼ぶ。
「あっ、仁さん、こんばんは。ケーキを買いに来ました。雅さんは食事会です」
「そうなんだ。外まで送るよ」
世間話をしながら入口へ向かう途中、前から来た長身でサングラスをかけた美人とぶつかりそうになったところを、仁さんに助けてもらった。
プラチナブロンドのストレートロングヘアに、黒いパンツスーツと黒い『ルブタン』のハイヒール、そして真っ赤な口紅が印象的な、まるでモデルのような女性だ。
すれ違った瞬間、思わず立ち止まって振り返った。
間違いない。
あの甘い香りだ。
立ち尽くして彼女を目で追うと、エスカレーターのところに雅さんが--。
彼女は雅さんに抱きつき、恋人のように親密な様子で腕を組み、そのままエスカレーターで上へ消えていった。
一連の流れを一緒に見ていた仁さんに、震える声で尋ねた。
「……じ、仁さん。あの方が田島ペーパーの副社長さんですか?」
--お願い、「そうだ」と言って!
「……ごめん、違う」
言いにくそうに、仁さんが教えてくれた。
「姫ちゃん、少し休んだ方がいいよ。そこの喫茶室でも、俺のオフィスでも」
長身の仁さんが少し前かがみになり、申し訳なさそうで心配そうな表情で私を見つめている。よほどひどい顔をしているのだろう。
頭の中が真っ白になり、胃がギュッと締めつけられた。何も考えられず、後ずさりしながら小さく首を横に振るのが精一杯だった。周囲の喧騒が反響しているように聞こえ、仁さんが話しかけてくれているのに、何を言っているのか全く分からない。
踵を返して走り、外に出てタクシーを捕まえた。行き先は銀座。バックミラーには、小さくなっていく仁さんの姿を映しながら。



