お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

俺は走ってミッドタウンに戻り、9時まで営業しているデパ地下で美愛ちゃんを探した。


頭に浮かぶのは、彼女と過ごした日々のこと。

今日の夕飯は何だろうと楽しみにしながら、玄関を開ける自分。

帰宅すると、『おかえりなさい』と笑顔で出迎えてくれる彼女。

家では髪の毛を結ばない彼女が、料理をする前にささっとゆるめのお団子ヘアにする姿が好きで、よく見ていた。

週末に一緒に作ったラビオリは、とても美味しかったな。

本屋でお互いに好きな本を読みながら、のんびりとした時間を過ごしたり、夕食後に散歩がてらコンビニのスイーツを買ったり。

たまに寝坊して、眠そうに『おはようございます』って言う姿が可愛らしかった。

すれ違うとき、彼女から俺と同じシャンプーの香りが漂ってくると、心が躍ったものだった。

彼女との時間を失いたくない。

彼女を失いたくない。

俺のそばにいてくれよ。

俺を君のそばにいさせてくれよ。

お願いだから、戻ってきてくれ!





その後、いつも行くカフェ併設の書店へ再び走る。ここでも何度かぐるぐると探し回ったが、彼女はいなかった。

裏通りに入り、いつも行く大型スーパーへ向かう途中、マンションから近いこの場所に小さな公園がある。

俺は走るのをやめて歩きながら公園の様子をうかがうと、ベンチの前に人影が見えた。

思わず走って近づくと、ベンチの前に立っている美愛ちゃんが。

月を見上げながら涙を流している。その横顔が、やけに遠く感じた。



走りながら彼女の名前を呼んだが、反応がなかった。


──まるで、このまま光に溶けて消えてしまいそうで。月に還ってしまいそうで、怖かった。