お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

ドライヤーの音が止まり、彼がそっとブラシで髪をとかしてくれる。


「まだ座っていて」


雅さんはそう言い残して、キッチンへ向かった。


怖いな、今度は何を言われるんだろう?


うつむいて膝の上に置いた手を見つめていた私の目の前に、雅さんがマグカップを差し出してくれた。


「はい、どうぞ」

「……ありがとうございます」


自分でも聞こえるかわからないくらいの声でお礼を呟き、受け取る。カップの中にはホットミルク。


「いただきます」


一口飲んですぐに気づいた。


あっ、これは私が作ったラベンダーシロップが入っている!


思わず隣に座っている雅さんの方に振り向くと、彼は悲しげな表情で微笑んだ。

「やっと俺と目を合わせてくれたね」


ハッと息を飲んだ。そういえば、社長室を出てから1度も雅さんの顔をまともに見ることができなかった。

私を探して公園に来てくれたとき、髪を乾かしてれたとき、ホットミルクをもらったとき。


「ぅ、ご、ごめんなさい」


堪えきれらくなり大粒の涙があふれ、今にも消え入りそうな声で囁いた。


雅さんは私の手からカップを取り、ローテーブルに置いた後、包み込むように私を抱きしめてくれた。


「美愛ちゃんは何も悪くない。むしろ、俺の方こそごめん。俺たち、今日のことを話し合うべきだけど、明日にしよう。美愛ちゃんが無事に戻ってきたから。ここに帰ってきたから、今はそれだけで十分だ」


私は自分のことばかり考えていて、雅さんの気持ちを少しも考えなかった。

こんなに心配してくれていたなんて。


小さな子供のように泣きじゃくる私の背中を、リズミカルにトン、トン、トンと優しく叩いてくれる。


「もう泣かないで、すべて大丈夫だから。ちょっと待っていて」


雅さんは私をソファーに残し、書斎へ行って何かを持ってきた。まだ泣いている私の隣に戻り、左手で私を抱き寄せる。


「はい、これ」


そう言って、1粒のキャラメルを口に入れてくれた。


あっ、Meuhのキャラメルだ。
あの時のお兄ちゃんのことを思い出すな。
えっ、もしかして……雅さんが?


「泣きやんだね。前に言っていたから、『Meuhのキャラメルから元気をもらった』って」


なんだ、違うんだ。 雅さんはお兄ちゃんじゃないんだ。


「これから先、また俺たちの意見が合わなかったり、言い合いをするかもしれない。でも、ここが美愛ちゃんの家だから。美愛ちゃんが帰ってくるのは、ここなんだ。いいね?」


雅さんは片腕で抱き寄せたまま、諭すように言った。





そのまま寝落ちしてしまった私は、朝目が覚めると雅さんのベッドで、寝ながら彼に抱きしめられていた。

えっ、えーー、どういうこと⁇