お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜

「あのねーー」


その小さな声に、ふと意識を向けた。隣を見ると、大きな瞳と目が合う。


「大きくなったらね、お兄ちゃんとミャー、お菓子屋さんするの」


さっき交わした約束の続きなのだと、なんとなく分かる。


「それでね……」


無邪気な笑顔のまま、彼女は続けた。


「お兄ちゃんは父さまで、ミャーは母さまになるの」


その意味は、もう理解していた。ただ、なぜ『お菓子屋さん』なのかだけが、分からない。

制服の袖を、ちょん、とつつかれる。


「約束、ね」

「どうしてお菓子屋さんになりたいの?」

「ミャーね、お菓子が好き。だから食べると嬉しくて笑うの。みんなにも笑ってほしいから」


再び彼女の頬に、エクボが覗いた。


「そうか……うん、そうだよね。僕もお菓子屋さんになるよ。一緒に」


その時だった。

彼女の名前を叫びながら走ってくる人たちが見えた。警察官と一緒だ。




特に何かがうまくいかない時や、迷いがある時、俺はいつもあの出来事を思い出す。高校1年の秋、迷子の女の子を助けたあの日のことを。

彼女の家族からは何度も感謝された。

でも実はーー

救われたのは俺の方だった。


今でも覚えている。

美しい色の瞳。

夕日に照らされて輝く髪。

透き通るような白い肌。

まるで天使や妖精のようなお姫様だった。

あの時の彼女の笑顔に癒された。そして彼女の言葉が、俺に将来の夢と目標を与えてくれた。前に進む力をくれたんだ。

ーーいつか、本当にお菓子屋をやろうと。




俺、西園寺雅(さいおんじ・みやび)、32歳。旧華族の家に三人の兄姉の末っ子として生まれた。


旧華族と言っても、祖父の代から『リベラル派』としての立場を取っている。いまだに古い伝統に縛られている『保守派』とは少し違う。

祖父は町の食堂の娘に一目惚れした。結婚に大反対していた曽祖父に絶縁を宣言したらしい。結局、曽祖父が折れ、その娘、つまり俺の祖母と結婚した。

そして戦後、輸入食品会社『伊乃国屋コーポレーション』を設立した。

祖父の後を継いだ父は、伊乃国屋コーポレーションを高級輸入食品を扱う会社へと発展させた。

現在は社長である兄の(きょう)が、国内外の高級食品や食材を扱い、全国に『スーパー伊乃国屋』を展開している。

父は伊乃国屋の営業部で働いていた母と結婚し、三人の子供に恵まれた。

ちなみに父は数年前に社長の座を兄に譲り、以前からの夢を実現した。今はミッドタウン裏通りの商店街で、母と一緒に昔ながらの喫茶店『喫茶BON』を仲良く営んでいる。