お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

また涙が出てきそう。


涙を止めようと立ち上がり、夜空の月を見上げる。どうしてだろう、その光を見ていると、胸の奥が静かに癒されていく気がする。
スーッと光に引き寄せられるような。


「美愛ちゃん!」


雅さんに呼ばれたの? 
きっと空耳だよね。


「美愛ちゃん!」


再び聞こえた声は、さっきよりも大きく、誰かが走ってくる音が近づいてきた。


「やっと見つけた……無事でよかった!」


力強く抱きしめられ、汗と混ざった紅茶とムスクの香りの香水が鼻をかすめた。


あっ、雅さんだ。


「こんなに冷たくなって」


彼はスーツのジャケットを脱ぎ、私にかけてくれ、恋人つなぎで手をつないだ。


「俺たちの家に帰ろう」





無言のまま帰宅した私たちの中で、最初に言葉を発したのは雅さんだった。


「部屋に行って、お風呂の準備をしておいで。俺が湯加減を見てくるから。とにかく早く温まらないと」



着替えを持って浴室へ向かう。部屋で外し忘れたネックレスを比較的長い洗面台カウンターの隅に置いた。

髪と体を洗った後、ゆっくりと湯船に浸かる。

いつもはミルク系の入浴剤を使っているが、雅さんがラベンダーの入浴剤を入れてくれた。

美しい紫色の湯船が、ラベンダーの香りで満たされている。
確か、ラベンダーにはリラックス効果と安眠効果があるはず。

雅さんのさりげない心遣いが嬉しかったが、それでも私の心はまだ冷たい。


これからどう接すればいいの?



脱衣所でパジャマに着替え、タオルドライしただけの髪。ドライヤーを使う気にもなれず、すぐにでも自分の部屋に戻りたい。

キッチンの前を通りかかったとき、雅さんに呼び止められる。


「美愛ちゃん、ソファーに座って」


彼は浴室に向かい、ドライヤーを持ってきた。


「風邪をひかないように、しっかり乾かさないと」

「大丈夫です」


立ち上がって部屋へ行こうとしたが、両肩を軽く押さえられて座らされた。


「いいから、俺の言うことを聞いて」


無言のまま座っている私に、雅さんが髪を乾かしてくれる。

早く部屋に戻りたい気持ちとは裏腹に、誰かに髪を乾かしてもらうのはとても心地よく、ずっとこのままでいたい気分になる。


小さい頃、よく父さまと圭衣ちゃんに、こんな風に乾かしてもらったなぁ。
気持ちよくて、そのまま寝てしまったんだよね。懐かしいな。