お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜

録音機能を停止した彼が、首を振った。その姿が視界の端に映る。


「ありがとう、花村さん……」


社長はまだ言いかけていたが、とにかくここには--雅さんとは一緒にいたくない。逃げるように社長室を後にした。

ドアを閉めた瞬間、張り詰めていたものがプツンと切れた。我慢していた涙がにじみ、足早にトイレへ向かう。途中、大和副社長とすれ違い声をかけられたが、私の耳には届かなかった。




そんなことを思い返しながら、今だに涙が止まらない。

その時--

トントントン。

個室のドアが遠慮がちにノックされた。


「美愛ちゃん、嫌な思いをしたね。つらかったね。このままでいいから、聞いてね」


この会社でお母さんのように思っている人、室長の美奈子さんだ。


「あまり詳しくは言えないけれど、私が総務の人たちと話したところ、誰一人としてあの社内メールを信じていないの。むしろ、美愛ちゃんのことをとても心配しているのよ。みんな、犯人が誰かわかっているみたい。

この後、第1会議室で王子たちとうちの部長たちによる緊急会議があるの。だから、私が美愛ちゃんの仕事の指示をすることになっているのよ」


静かにドアを開けて、ようやく個室から出た。私の顔を見た美奈子さんは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに私を抱き寄せ、ゆっくりと背中をさすりながらなだめてくれた。


「こんなに泣いてしまって。私たちで美愛ちゃんのことを守るから、ね? 大丈夫、絶対に大丈夫だから。今日はもう仕事を終わりにしましょう。美愛ちゃんはとっくに今日の分を終わらせているし。少し早いけど、これで終わり。

帰ってゆっくり湯船に浸かるのもよし、甘いものを食べるのもいいわね。私のお勧めは、このフロアにある庭園かしら。とても居心地がいい上に、人もいないのよ。よかったら行ってみて」




帰り支度をして、美奈子さんと一緒に社長室の前を通りかかった。その時、中から大きな声が聞こえてきた。


「お前は! 考えればわかることだろう?」


初めて聞く副社長の力強い声に驚いて、美奈子さんを見た。


「いつものことだから平気よ。それに今回は、私も副社長と同じ気持ちだから」


美奈子さんは不敵な笑みを浮かべていた。
『Bon Bon』の入口まで送ってくれた美奈子さんが、もう一度私を抱きしめてくれた。


「また明日ね、美愛ちゃん」


さっきトイレの鏡で見た自分の顔は、泣いたせいで目が腫れて真っ赤だった。このままでは外に出られないと思い、エレベーターホールを横切って誰もいない空中庭園へ向かった。




それほど広くないその庭園には、黄色や赤く色づいた葉をつけた木々があり、周りには円形のベンチが配置されていた。今の時期、5時には日が暮れ始めるが、ガーデンライトのおかげで心地よい明るさが保たれている。

ベンチに座り、暗くなる東京の空をどれくらい見つめていたのだろう。おそらく目の腫れと赤みは、もう引いているはずだ。

心のしこりは消えず、家にも戻りたくない。サクラスクエアのデパ地下で大好きなスイーツ巡りをして時間をつぶしたが、いつものように楽しくなかった。

いつの間にか、私の足は裏通りの商店街へと向かっていた。