お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

しかし、大和が食い下がってきた。
こいつがここまで粘るということは、何か確実に理由があるはずだ。こいつの情報網、観察力、そして先見の明。何かを感じ取っているのだろう。

ここはしばらく様子を見てみようと思った矢先に、同居の提案に、さすがに俺も声を荒げてしまった。

だがこいつの言っていることは的を射ているし、彼女のアパートで隣人とのトラブルが続いていたとは。

話を聞くにつれて、ますます彼女の身の安全が心配になってきた。アパートに戻るべきではないと感じる。いつ最悪の状況になってもおかしくない。

なぜか俺が守らなければと思ってしまい、つい口に出してしまった……


「うちにおいでよ」


渋る彼女に対して、交換条件として生活費と家賃を俺が負担して、彼女には俺の食事と健康管理を任せることを提案した。

それでも、彼女はまだ決心がつかない。
まあそうだろう、彼氏でもない男と一緒に住むのだから。この子は『西園寺』というブランドを欲しがっていて、あわよくば俺に取り入ろうとするタイプではない。

彼女を安心させるために、涼介の立会いのもとで契約書を交わすことを追加する。

何かを決心したような彼女から、ようやく待ち望んでいた言葉を聞くことができた。


「しゃ、社長、よろしくお願いいたします」


そう言って頭を下げた。この時、大和が満足そうに頷いていたのは、俺だけが知っている。





涼介が立会い契約書にサインを交わした直後、彼女の様子がおかしい。頭を抱えてうつむき、顔色も良くない。

何があったのだろう?
やはり後悔しているのか?

彼女の心の声が再び漏れ出した。


「あぁぁ、どうしよう? 引越しのことで頭がいっぱいで、全然考えられなかった。どうやって両親に説明しよう? いきなり『社長と同居するから』なんて言えないよ。このまま黙ってる? むり、ムリ、無理だよ! だって、新しい住所も知らせないといけないし。特に圭衣ちゃんはよく荷物を送ってくるから、黙っているわけにはいかない。というか、両親よりも圭衣ちゃんの方が怖いんですけど。絶対に怒るよ。ようちゃんを味方につける? どうしよう、なんて言えばいいの?」


仕事では常に冷静で感情を表さない彼女が、今、パニックに陥っている。