お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

あ、誰かが泣いている……

たまたま一人で下校中、小さな公園を通り抜けているときベンチの前で泣いている小さな女の子。年齢は5、6歳くらいだろうか? 面倒なことに巻き込まれたくなく、知らぬふりをしようとしたとき、その子と目が合い、ハッとした。

光の加減によって変わるその瞳の色、透き通るような肌の白さ、背中まで届く緩やかなウェーブの柔らかそうな髪が、夕日に照らされてキラキラと輝いている。

もしこの世に天使や妖精が存在するのなら、きっと彼女のことを指しているのだろう。それは、どこか『地球ではない何か』を思わせる、懐かしい光だった。

『かわいい』や『キレイ』という言葉ではなく、まさに『美しい』という表現がふさわしい。

彼女が泣いている姿を見ると、『守ってあげたい』という庇護欲が掻き立てられる。


「どうしたの? ケガでもしているの?」

「……っ、と、父さまと母さまと姉さまが
いないの……I want my daddy. I wanna go home」


俺の問いに対して、弱々しく震える声で答えた。どうやら日本語と英語が理解できるようだ。


「えーと、お父さんたちとはぐれてしまって、おうちに帰りたいのか……ねぇ、可愛いお姫様、君の名前は?」

「ミャー」

「えっ、猫? とりあえず、今からお巡りさんに電話して助けてもらおうね!」


金曜日の今日は秋祭りの初日で、警察が到着するまでに10分かかるらしい。泣き止ませたいけれど、どうすれば?


「好きな動物は?」

「……っ」

「僕は学校に行っているんだ。ミャーちゃんは?」

「ぅ……」

「好きな食べ物は?」

「……お、お菓子、ケーキ」


カバンの中に、お父さんからもらったお土産があることを思い出す。丸い箱に牛の絵が描かれているフランスのキャラメル。


「これはね、僕が一番好きなキャラメルなんだ。一緒に食べよう」