お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

「理にかなっているじゃない? 雅は食生活を整えることで体調が良くなり、さらに仕事に専念できる。美愛ちゃんは今住んでいる場所までわざわざ帰らなくて済むから、無駄な時間が省ける。雅のところから会社まで歩いて約15分くらいだよ。それに、美愛ちゃんは今、新しいアパートを探しているでしょう?」


えっ、どうして副社長が知っているの?
誰にも言っていないのに。

つまんだプチシューを思わず膝の上に落とし、驚いてただ目を見開き、副社長を見つめることしかできなかった。


「昨日送って行ったとき、車から降りるのを躊躇したよね? あれは、お隣さんが部屋の前でタバコを吸いに出てきたからでしょう? 美愛ちゃんは、あの男を避けるようにして素早く部屋に入ったもんね」


副社長が言った通り、私は隣人の男性を避けている。



1カ月前に引っ越してきた男性は、まさに私が苦手なタイプ。

深夜遅くまで聞こえるテレビの音や話し声、廊下で会うたびにニヤニヤしながら私をジロジロ見るいやらしい目つき。タバコの吸い殻を投げつけられたこともある。特に最近は、夜になると私の部屋のドアをノックし、取っ手をガチャガチャ回して開けようとする。

大家さんに注意してもらったが、逆効果でさらにひどくなってしまった。もちろん、鍵もチェーンもかけているが、やはり怖い。だから引越しを考えている。

昨日、喫茶 BONで副社長を待っている間、ケータイでアパートの情報をチェックしていたのを見られていたかも?


「美愛ちゃん、その男に嫌がらせをされているんじゃないの? 話してみて。力になれるかもしれないから。」


副社長は仕事だけでなく、すべてに対して鋭いの? 観察力だけでなく、洞察力も兼ね備えた恐るべき烏丸大和。もしかすると、この会社で最も敵に回してはいけない人物かも?

社長と副社長は、私が話し始めるのを待っているようだ。これ以上避けることはできないと判断し、この1か月間の出来事をすべて話した。


「両親に言えば、『帰ってこい』とか『助けてあげる』って言ってくれると思います、きっと。でも……」

「美愛ちゃんはご両親に頼りたくないんだね? 自分で解決したいんだよね?」


副社長の問いに、私は小さく頷いた。