お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜

眉間にシワを寄せながら、これまで静かに聞いていた社長が口を開いた。


「花村さんはそのアパートに戻るべきではない。俺の家は3LDKで一部屋空いている」


社長と私の視線が交わった瞬間ーー


「うちにおいでよ」


社長からの思いがけない言葉に、耳を疑った。

一瞬、呼吸を忘れる。

でも、すぐに現実に引き戻された。優しさには感謝するが、まず家賃の半分すら払えないと思う。


「あ、ありがとうございます。でも、半分の家賃でもお支払いできません」

「家賃も光熱費も不要だよ」


社長はそうおっしゃった。

えっ、そんな訳にはいかないよ……

そう考えていると、彼のために食事を作ってほしいと言われた。できれば朝昼晩三食。朝は簡単にコーヒーとトーストで十分、予定のない日の昼のお弁当と夕飯。もちろん、食費を含めた生活費も出してくれると。

この条件、私にとっては最高!

でも、社長にとっては?

食事以外のメリットしか、ない。


「とてもありがたいお話ですが、私がいると逆に休みにくくなるのではないでしょうか? これでは申し訳ありません」

「そうでもないよ。体調も整いもっと仕事に専念できる」


社長は私といても、自然体でいられるとおっしゃる。それにこれ以上私が、危険な目に遭わずに済むとも。


「君は俺にとって、『Bon Bon』にとっても大切な社員だからね」


でも、男の人と暮らすなんてハードルが高すぎる。

まだ躊躇している私に、社長が静かに続けた。


「君が嫌がることは絶対にしない。必要であれば、涼介の立会いのもとで契約書を作成しよう」


ここまで言われたら、受けるしかない。部屋にも実家にも戻りたくないし、社長の健康管理もできる。家賃と食費が浮いた分を貯金すれば、新しいアパートへの引っ越しだってできる。

ーーよし!


「しゃ、社長。よろしくお願いいたします」




終業後、弁護士の涼介先生も交えて契約書に、少し震える指先で、サインをした。

家賃や生活費に関すること、私が嫌がることをしないこと、同居の件を他の社員に話さないことなど、基本的な内容について合意した。それ以外の詳細については、後で二人で話し合って決めることにする。