お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

ただ、これは出過ぎたことになるのかしら?
秘書の役割はどこまでなのだろうか?
これも『色目を使う』ということになるの?

とりあえず、私は終業後に大和副社長と会う約束をした。場所はオフィスから少し離れた裏の商店街にある喫茶 BONで。





大和副社長から『少し遅れる』とのLIMEメッセージがあったため、私は一足早く到着し、ニューヨークレモンチーズケーキとポットで提供されるルイボスティーを注文した。

実は、ここのニューヨークレモンチーズケーキは、私がママさんにレシピを教えたの。以前から通っている喫茶BONのママさんと、いつの間にかスイーツを通じて仲良くなり、一人で訪れると、よく私の話し相手になってくれる。

あまりお菓子作りが得意でないママから『あともう一品スイーツをお店に出したい』と聞いたので、レモンチーズケーキを提案し、一緒に作って教えたのだ。

唯一、ママが作れるのは混ぜるだけのバナナブラウニーで、成人した三人のお子さんたちも好きらしく、特に甘いものが好きな末っ子さんは今でもよくリクエストしてくれると、嬉しそうに話してくれた。

もちろん、このバナナブラウニーは喫茶BONで提供されており、すぐに売り切れになる。私のレモンチーズケーキもお客様から好評のようで、嬉しい限りだ。





10分後に到着した副社長は、デカフェのコーヒーを注文した。


「遅くなってごめんね」

「こちらこそ、お時間をいただき、ありがとうございます」


コーヒーを一口飲んだ副社長は、心配そうな表情を浮かべ私を見る。


「美愛ちゃんに話があると聞いて、少し不安なんだけど。まさか会社を辞めるなんて言わないよね?」

「えっ? 辞めません。辞めたくないです。まだ働かせてください」


言われたことに驚き、思わず頭を下げた。


「何だー、びっくりしたよ……
よかったぁー。じゃあ、美愛ちゃんは辞めないと。うん、よかった」


ホッとした副社長の顔に笑顔が戻った。