お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

そんな中、俺の不在の間に、副社長の大和が秘書の採用を即決してしまった。

学生時代から、自分をブランド品のように見る人々に辟易していた。その感情は今でも変わらない。だから、自分の会社を設立した際には、信頼できる人たちしか雇わなかった。

ただし、佐藤麻茉を除いては。特に部長たちや秘書室のメンバーには、その思いが強い。

会社を始めた頃、大和は社長秘書も兼任してくれていたが、業績が伸び、会社が大きくなるにつれて、大和には副社長に専念してもらうのが妥当だと感じた。

とりあえず期間限定で秘書を雇ったが、どの秘書も役に立たない。その上、問題児の佐藤麻茉がポジションを狙っているとの情報が入る。

冗談じゃない、あの女が俺の秘書になることは100%あり得ない。

そんな時、行きつけのバーで大学の恩師である道上百合教授に久しぶりに会い、社長秘書を募集していることを話した。

その2日後に秘書の採用が即決。

大和の人を見る目は確かだが、どこか自分自身がこの採用に不安を感じていた。しかし、花村美愛は良い意味で俺の期待を裏切ってくれた。

彼女の仕事の速さと完璧さは、今までの秘書の中で最も優れている。苦戦していた南ドイツの問題の突破口を開いてくれたのも彼女。

数カ国語を話せる上、何より俺に対して全く色目を使わないため、自分の仕事に専念できるのは久しぶりだ。

秘書室のメンバーとも良好な関係を築いているようで、安心。

安心と言えば、彼女と話しているときは、ありのままの自分でいられるし、無理に予防線を張る必要もない。

俺らしくないが、まだ知り合って数日の彼女をケーキの食べ放題に誘ったくらいだ。予想外に俺が甘党だと知ると、『筋金入りの甘党仲間』と言われ喜んでくれた。

仕事をしている時とプライベートでの彼女のギャップがかわいいと思ってしまう、しかも天然なのか?

笑ってできるエクボも愛らしい。それに彼女の目、あれは一体何色なのだろう? 入社した日には気に留めなかったが、今日太陽の下で見た彼女の瞳は、その時々で色が変わっていた。


以前、どこかで見たような記憶が……
そうだ、高校生の時に出会った姫のようだ。
あの子は今でも俺との約束を覚えているのだろうか?