お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

おもむろに立ち上がり、ファックスを読みながら机に向かった。コンピューターをオンにし、何かを紙に書き出す。ファックスと紙を交互に見ながら、コンピューターに入力を始める。

朝食のカップとお皿を片付けながら、雅は静かに待っていた。


「社長、お待たせいたしました」


ファックスと翻訳した文書を雅の机の上に置く。


「こちらの会社は、『今まで通り古くから伝わる方法を変えることはない。会社を大きくするよりも、今のやり方を守りたいので、BON BONへ輸出できる量は毎月五十箱が限度。一箱には八個のお菓子が入っており、それでよければ契約したい』とのことです」

「そうか! 俺が提示したのが百箱だったから、そこで食い違ったんだな。五十箱でも契約したい。月曜日に国際事業部に行って、先に進めよう。しかし、花村さんはそのファックスをよく読めたね」


ようやく解読できた謎のファックス。これでこの契約が大きく前進できるという安心と、入社したばかりの美愛の能力に驚かされる雅。


「癖のある文字でした。このファックスに書かれているのは高地ドイツ語、いわゆる方言ですので標準ドイツ語とは少し異なるため、戸惑ってしまったのかもしれませんね」

「えっ、そうなの? 俺はドイツ語ができないから。ドイツ語担当者も『読めないし、意味がわからない』って言ってたのはそういうことだったんだ。じゃぁ標準ドイツ語で契約書を送ったらまずいか?」


どうしてもこの契約を成立させたい雅は焦りを感じた。


「高地ドイツ語を話す人々は、標準ドイツ語も理解しています。それが公用語なので。ただし、彼らは自分の地域に対する誇りから高地ドイツ語を使用していると思います」

「花村さんは、そのドイツ語を知っていたんだ。」

「父の一族はバイエルン地方出身なので」

「南ドイツなんだね。もしかして、さっきのコーヒーを知っていたのもそうなの?」


美愛は微笑みながら頷く。


「さっきのコーヒーの取り扱いについても考えてるんだ。少しずつだけれど、お菓子に合うコーヒー、紅茶、ハーブティーを取り入れたい。また、南ドイツの会社と交渉する際には、花村さんに手伝ってもらわないと」


社長から嬉しい言葉をかけられ、自分の仕事が役に立ったことに喜びを感じた美愛。