お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜

彼女はおもむろに立ち上がり、ファックスを読みながら自分のデスクへ向かった。コンピューターをオンにし、何かを紙に書き出している。ファックスと紙を交互に見ながら、コンピューターへの入力を始めた。

朝食のカップとお皿を片付けながら、壁際のデスクに座る彼女の後ろ姿が、何気なく目に入った。

淡い色のワンピースに、ほどいた髪。この3日間、できるだけ視界に入れることを拒んでいた--初めて自分の中で認識した、『花村美愛』という存在。しかし作業するその背中は思ったより華奢で、視線を外すタイミングを一瞬失った。


「社長、お待たせいたしました」


しばらくして、ファックスと翻訳した文書を俺のデスクに置いた。

彼女の説明によると、昔ながらの製法を変えずにいるので、こちら側の要望の半数しか納品できないとのこと。

『輸出できる量は、毎月五十箱が限度。
一箱には八個のお菓子が入っており、
それでよければ契約したい』

そうか! 俺が提示したのが百箱だったから、そこで食い違ったんだ。もちろん、五十箱でも契約したい。


「月曜日にバイヤー部に行って、先に進めよう。しかし、花村さんはそのファックスをよく読めたね」

ようやく解読できた謎のファックス。この契約が大きく前進できるという安堵と、入社したばかりの彼女の能力への驚きが、正直なところ入り混じっていた。


「このファックスに書かれているのは高地ドイツ語、いわゆる方言です。そのため、戸惑ってしまったのかもしれませんね」

「じゃあ標準ドイツ語で契約書を送ったらまずいか?」


どうしてもこの契約を成立させたい。焦りを感じる俺に、花村さんは柔らかく話を続けた。


「標準ドイツ語も理解しています。ただし、自分たちの地域に対する誇りから高地ドイツ語を使っているのだと思います」

「花村さんは、その方言を知っていたんだね」

「父の一族がバイエルン地方出身なので」

「南ドイツなんだね。さっきのコーヒーを知っていたのも、そういうことか」


彼女は微笑みながら頷いた。


「このコーヒーの取り扱いについても、考えてる。また南ドイツの会社と交渉する際には、花村さんに手伝ってもらわないとね」


彼女なら、秘書として長く続くかもしれない--そんな期待が頭をかすめた。