お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

「でも、本当に迷惑よね、総務の悪魔。あいつ、社内外で男漁りがひどいって噂よ。うちのかわいい美愛ちゃんに何かしたら、私がぶん殴ってやるからね!」

「静子さんは赤ちゃんがいるんだから、そんなことをしたらダメですよ!」


焦る野近が静子を落ち着かせようとする。


「僕たちも佐藤に注意を払い、美愛ちゃんにも頻繁にチェックしたほうが良いですね。また、何かあった場合には、必ず僕たちに報告するように伝えましょう。佐藤は影でターゲットを狙っていじめるタイプですからね」


元原も心配していた。





「花村さん、今日は資料作成とリサーチをお願いする。君の席はあそこね」


雅は自分の机の右斜め前にある壁を指差した。後ろを振り返った美愛は、昨日まで社長室になかった机、コンピューター、電話、椅子を確認した。

昨日、大和と雅が準備を整えたのだ。万が一、佐藤が行動を起こしても、この社長室には入らないと考えて。

ただ、雅は大和の提案に対してあまり乗り気ではなかった。過去に数回、期間限定で秘書を雇い、社長室で業務を行ってもらったが、皆、雅に見とれて業務をおろそかにしたり、やたらとボディータッチをするなどの逆セクハラがあったため、契約を破棄せざるを得なかった経緯がある。

しかし、半日同じ部屋で仕事をしていたが、美愛は必要以外は雅に話しかけず、黙々と自分の仕事をこなしていた。

30分の残業を終えた美愛は、雅に呼び止められた。


「花村さん、ちょっといいかな? 話ししたいことがあるのだが。そんなに時間を取らせない」

「はい、大丈夫です」

「急なお願いで申し訳ないのだが、明日の土曜日に予定がなければ、出社して手伝ってもらいたい仕事があるんだ。朝9時から始めて、3時までには終わらせる予定。もちろん、休日特別手当も出る。どうかな?」

「特に予定がないので、お手伝いできます」

「助かるよ。9時にここ社長室ね。スーツではなく、カジュアルな服装でいいから。それから、今日の総務の件についてなんだけど……」


雅は、一瞬美愛の顔が曇り、うつむいたのを見逃さなかった。