お菓子の国の王子様〜指切りした初恋は御曹司の溺愛プロポーズへ〜

頭の中が真っ白になった。

胸の奥が、じわじわと痛む。

……初めてだった。

誰かに、あんなふうに罵倒されたのは。

しかも初対面の人に。

私……何かしたのかな。


「ごめんね。花村さんに嫌な思いをさせてしまって。用があってここに来たんだよね?」


杉山部長の声に引き戻され、なぜここに来たかを思い出した。


「は、はい。あ、あの、ドリンクコーナーの電球交換をお願いしたいのですが……」

「わかりました。今すぐ人を送るからね」


申請書を柔らかい笑顔で受け取ってくれた杉山部長。私が去った後、彼がすぐにこの出来事をブレーン8のメンバーにLIMEで伝えていたことを、この時の私は知る由もなかった。




秘書室へ戻りながら、ふと佐藤さんに言われた言葉が蘇ってくる。

もしかしたら、彼女が社長秘書のポジションに就くはずだったのかもしれない。それなのに、私が受けてしまったから。

--だからか! 

社長との間に、見えない境界線が張ってあったのは。きっと社長も、佐藤さんの方が良かったんだ。

……このままここで働いても、いいのかな?

足取りは、次第に重くなっていく。

秘書室のドアを開けると、副社長がいた。社長室で業務を続けるよう指示を受ける。部屋にも入らずドアを閉め、廊下の奥へと向かった--さらに足取りも、心も重く。




社長室のドアは、どこか重みがあって、嫌でも緊張してしまう。ノックする前に大きく深呼吸をして、気持ちを切り替えた。


「仕事、仕事、仕事」


口の中で呪文のように呟き、背筋を伸ばす。軽くノックをして入室した。


「花村さん、今日は資料作成とリサーチをお願いする。君の席はあそこね」


社長は自分のデスクの右斜め前の壁を指差した。相変わらず微笑んではいるが、目には温かさがない。その視線に耐えられず、後ろを振り返る。昨日までこの部屋になかった、私用のデスクとコンピューター、電話、椅子が置かれていた。

瞬間、複雑な気持ちになる。

監視……されるの? 

信用されていないの?

と、とりあえず仕事しよう。

モヤモヤした気持ちを打ち消そうと、いつも以上に仕事へ集中した。後ろを振り向かなければ、社長の冷たい目を見なくて済むから。




30分の残業を終えたところで、突然社長に呼び止められた。一気に喉が渇き、体が強張る。


「花村さん、ちょっといいかな? 話したいことがあるのだが。そんなに時間は取らせない」

「は、はい。大丈夫です」

「明日の土曜日に予定がなければ、出社して手伝ってもらいたい仕事があるんだ。朝9時から始めて、3時までには終わらせる予定。もちろん、休日特別手当も出る。どうかな?」

「お、お手伝いできます」

「助かるよ。9時にここ--社長室ね。スーツではなく、カジュアルな服装でいいから。それから、今日の総務の件なんだけど……」


佐藤さんの罵声が頭を埋め尽くし、胸がズキンと痛んだ。思わず顔が曇り、うつむいてしまう。この時、社長の視線に、私はまだ気づいていない。