お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

挨拶をし、昔母に何度も練習させられた30度の美しいお辞儀をした。

188センチの父よりやや低いが、それでも高身長でダークネイビーのスーツを着こなし、鼻が高く、くっきりとした二重まぶたで左目尻にほくろがある、爽やかな笑顔の社長が私を立って迎えてくれた。

なんだろう、笑顔は爽やかだけれど、どこか冷めた壁の雰囲気に作り笑いを感じてしまう。私のことを警戒しているのかな? あっ、この人も左目尻にほくろがあるんだ……


「あぁ、君が花村さんですね。はじめまして。社長の西蓮寺雅です。よろしく。早速ですが、この資料を今日の終業時間までに作成することは可能だろうか?」


低音で落ち着きのある社長の声に、思わず聞き惚れてしまいそうになる。時計を見ると、2時だった。この量なら、3時間あればできるだろう。


「大丈夫だと思います」





「ふぅ、終わった」


時刻は4時50分。

たぶん、これで大丈夫だよね?

数回見直した後、作成した資料のサンプルを印刷し、緊張しながら社長に提出。


「うまくできているね、ありがとう。うちのコンピューターで何か困ったことはなかった?」

「ありませんでした。私もそのソフトを使っているので、大丈夫でした。他に何かご用はありますか?」

「今日はもうないかな……後は大和から指示をもらって」


軽く会釈をして退室した。


よかった〜、最初の仕事を無事にこなすことができて。



5時半の終業まで、大和副社長からいただいた秘書マニュアルと取引先の資料に目を通す。

マニュアルに記載されている内容は、これまで父の会社で行っていたこととほとんど変わらず、この会社で使用しているソフトウェアも同じなので安心。

取引先の資料には、会社名や社長名、役員名、住所、連絡先番号に加え、プライベートな情報も掲載されていた。

『S.Gストーレッジの営業部長に初孫の男の子が生まれた』や『天地運輸の社長は辰屋の豆大福が好物』など、こちらの方は覚えることが多いが、もうすぐ無事に初日を終えられそうだ。