初出勤の朝。緊張している私は、就業時間の30分前に到着。そのまま副社長室へ向かうと、すでに烏丸副社長は出勤されていた。
「ふ、副社長、おはようございます。今日からよろしくお願いいたします」
「美愛ちゃん、おはよう」
やわらかい声に、少しだけ肩の力が抜ける。
「僕はみんなのこと、ファーストネームで呼んでいるんだ。『大和副社長』でいいよ」
にっこりと笑みを浮かべる大和副社長。
「明日からは、規定時間通りで大丈夫だからね」
この日は、さまざまな手続きや各部署への挨拶、そして社長秘書の仕事内容の引き継ぎから始まった。社長は午後から出社されるとのことだった。
秘書室には、副社長秘書で室長の大河内美奈子さんがいる。ベテラン秘書で、大学生の息子さんがいるアラフォーの女性だ。どこか包み込むような雰囲気がある。
以前は『伊乃国屋』で社長秘書を務めており、前社長の退任後に『Bon Bon』へ移られたという。
普段は人見知りで、慣れるまでに時間がかかる私だけれど、大河内さんの明るく優しい雰囲気にすぐ溶け込むことができた。思わずホッと胸を撫で下ろす。
午後、社長が出勤されたのでご挨拶に伺った。副社長が私を紹介してくれる。
「社長、こちらが花村さんです。この2日間、彼女に美奈子さんのサポートをしてもらい、大まかな引き継ぎを行います」
「は、はじめまして。本日付で入社いたしました、花村美愛と申します。1日でも早くお役に立てるよう努力いたします。どうぞよろしくお願いいたします」
挨拶をし、幼い頃から母さまに何度も練習させられた30度のお辞儀をした。緊張で声が微かに震えてしまったけれど。
188センチの父さまよりやや低いが、それでも高身長で、ダークネイビーのスーツを颯爽と着こなしている。鼻筋が通り、くっきりとした二重まぶた--そして左目尻にほくろ。
あれ、この方も左目尻にほくろがあるんだ。珍しい。
社長は爽やかな笑顔で、立って私を迎えてくれた。
でも、なんだろう。
笑顔は爽やかなのに、どこか温度のない壁のようなものを感じる。
--目だ!
目が、まったく笑っていない。
……私、ここでやっていけるんだろうか
「あぁ、君が花村さんですね。はじめまして。社長の西園寺雅です。早速ですが、この資料を今日の終業時間までに作成することは可能だろうか?」
低音で落ち着きのある声に、思わず聞き惚れてしまいそうになる。時計を見ると、2時だった。この量なら、3時間あればできるだろう。
「大丈夫だと思います」
数時間後。時計を見ると、すでに終業時間が近づいていた。
「ふぅ、終わった」
たぶん、これで大丈夫だよね?数回見直した後、作成した資料のサンプルを印刷し、緊張しながら社長に提出した。
「うまくできているね、ありがとう。うちのコンピューターで何か困ったことはなかった?」
「ありませんでした。私もそのソフトを使っていたので。他に何かご用はありますか?」
「今日はもうないかな。後は大和から指示をもらって」
軽く会釈をして退室した。
……よかった。
胸の奥に、ようやく小さな安堵が落ちた。それでも、社長は少し苦手かもしれない。けれど、どうにか初日を乗り越えられそうだ。
「ふ、副社長、おはようございます。今日からよろしくお願いいたします」
「美愛ちゃん、おはよう」
やわらかい声に、少しだけ肩の力が抜ける。
「僕はみんなのこと、ファーストネームで呼んでいるんだ。『大和副社長』でいいよ」
にっこりと笑みを浮かべる大和副社長。
「明日からは、規定時間通りで大丈夫だからね」
この日は、さまざまな手続きや各部署への挨拶、そして社長秘書の仕事内容の引き継ぎから始まった。社長は午後から出社されるとのことだった。
秘書室には、副社長秘書で室長の大河内美奈子さんがいる。ベテラン秘書で、大学生の息子さんがいるアラフォーの女性だ。どこか包み込むような雰囲気がある。
以前は『伊乃国屋』で社長秘書を務めており、前社長の退任後に『Bon Bon』へ移られたという。
普段は人見知りで、慣れるまでに時間がかかる私だけれど、大河内さんの明るく優しい雰囲気にすぐ溶け込むことができた。思わずホッと胸を撫で下ろす。
午後、社長が出勤されたのでご挨拶に伺った。副社長が私を紹介してくれる。
「社長、こちらが花村さんです。この2日間、彼女に美奈子さんのサポートをしてもらい、大まかな引き継ぎを行います」
「は、はじめまして。本日付で入社いたしました、花村美愛と申します。1日でも早くお役に立てるよう努力いたします。どうぞよろしくお願いいたします」
挨拶をし、幼い頃から母さまに何度も練習させられた30度のお辞儀をした。緊張で声が微かに震えてしまったけれど。
188センチの父さまよりやや低いが、それでも高身長で、ダークネイビーのスーツを颯爽と着こなしている。鼻筋が通り、くっきりとした二重まぶた--そして左目尻にほくろ。
あれ、この方も左目尻にほくろがあるんだ。珍しい。
社長は爽やかな笑顔で、立って私を迎えてくれた。
でも、なんだろう。
笑顔は爽やかなのに、どこか温度のない壁のようなものを感じる。
--目だ!
目が、まったく笑っていない。
……私、ここでやっていけるんだろうか
「あぁ、君が花村さんですね。はじめまして。社長の西園寺雅です。早速ですが、この資料を今日の終業時間までに作成することは可能だろうか?」
低音で落ち着きのある声に、思わず聞き惚れてしまいそうになる。時計を見ると、2時だった。この量なら、3時間あればできるだろう。
「大丈夫だと思います」
数時間後。時計を見ると、すでに終業時間が近づいていた。
「ふぅ、終わった」
たぶん、これで大丈夫だよね?数回見直した後、作成した資料のサンプルを印刷し、緊張しながら社長に提出した。
「うまくできているね、ありがとう。うちのコンピューターで何か困ったことはなかった?」
「ありませんでした。私もそのソフトを使っていたので。他に何かご用はありますか?」
「今日はもうないかな。後は大和から指示をもらって」
軽く会釈をして退室した。
……よかった。
胸の奥に、ようやく小さな安堵が落ちた。それでも、社長は少し苦手かもしれない。けれど、どうにか初日を乗り越えられそうだ。



