お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

「紫道君、君のプライベートに口を挟むつもりはない。しかし、ビジネスは別だ。これは君のショップだけの問題ではなく、このホテルのレプテーションにも関わっているんだよ。君とこのショップ自体を高く評価している。しかし、残念だが、週明けの月曜日の午前中には、どうするか教えてほしい。ここを離れるのか、君がどのようにパートナーに対処するのかについてだ。場合によっては、君のパートナーに法的な対処を顧問弁護士の涼介にお願いすることも考えている。雅は私の大切な親友で、その婚約者の姫ちゃんは私にとって妹のような存在の子なんだよ」


仁と紫道君が話をしている間、何度も美愛ちゃんに電話をかけたが、繋がらず、メッセージも既読にならない。

圭衣ちゃんに電話をして、起きたことを伝えた。もちろん、シスコンの圭衣ちゃんは、いより君に対する罵り方が凄まじい。あまりの酷さに、途中で彼女と一緒にいた大和が対応してくれた。


俺はまたやらかしてしまったのか?
彼女を傷つけてしまった。
今となっては遅いが、美愛ちゃんに嘘をつかなければよかった。
俺はただ彼女を喜ばせたかっただけなのに。





誰もいない真っ暗な部屋に帰ってきた。やはり美愛ちゃんは戻ってきていない。

以前にも同様の状況があった。その時以上に俺の心には大きな穴が空いていて、虚しさでいっぱいだ。

どれくらい暗いリビングのソファに座っていたのか、突然ケータイが鳴り、美愛ちゃんの名前が表示された。


「もしもし、美愛ちゃん? 無事なのか? どこにいるんだ? お願いだから帰ってきてくれよ。すべて誤解なんだ」

「初めまして、美愛のもう一人の姉、葉子です。あの子は無事ですよ。今、私と一緒にいます。でも電話で話すことができる状態ではないので」

「えっ、葉子ちゃんってアメリカの?」

「はい、今日の午後に日本に戻ってきました。美愛からの話は聞きましたが、あなたからはお話を伺っていないので、何と言えばよいのか分かりません。はっきり言って、雅さんはあの子を裏切りましたか?」

「美愛ちゃんを裏切ったことは1度もないし、これからもそんなことはしない」


俺は葉子ちゃんに事の経緯を話した。彼女に秘密にしている婚約指輪作りから、今日の出来事まで。葉子ちゃんは話を聞いて、提案をしてくれる。


「日曜日の午後に話し合うのはいかがでしょうか? それまで私の所で休ませます。美愛が二人きりで話したいのであれば、それで構いません。ただし、二人きりでない場合は、そのいよりさんとそのパートナー、あと圭衣にも話し合いに参加してもらいたいと思います。いよりさんには、きちんと謝罪してもらいます。もしいよりさんが、直接無礼な発言をしても、美愛が自分で反撃するチャンスを与えてあげてください。あの子いつも言いたいことを我慢してしまうから。ああ、もちろんその後は、彼女を守ってあげてくださいね。また後で連絡します」


美愛ちゃんの無事は確認できたが、話し合いをしても、彼女が俺の元へ戻ってくるとは限らない。

リビングの窓から見える夜空の暗闇にこのまま吸い込まれそうで、やるせない気持ちになる。


日曜日まであと2日、長いな。
一人でいるのが、こんなにも寂しいとは。
彼女がいない、彼女に触れることができない。