お菓子の国の王子様〜指切りした約束から婚約まで〜花村三姉妹   美愛と雅の物語

コーヒーの良い香りが鼻をかすめた。ニット帽を被った優しい笑顔のマスターが、カウンターでコーヒーを淹れている。
店内は読書ができる程度の明るさで、かすかにジャズが流れていた。

見渡すとりりちゃんはすでに来ていて、奥のテーブル席で手を振ってくれている。


「りりちゃん、待った?」

「私もさっき着いたところ。お腹が空いているから先に注文しちゃったんだけど、美愛は何にする?」

「お昼はまだだから、ミックスサンドと紅茶にしよう。」


注文した品が届き、私たちは食事をしながら会話を楽しんだ。


「ところで、今日呼び出したのはね、美愛に勧めたい仕事があるからなの。私の教え子が数年前に設立した輸入菓子を扱う会社で、秘書を探しているの。『慶智(けいち)の王子達』って知ってる?」

「アイドルグループか何か?」

「違うわよ。あなたは本当にこういうことに興味がないのね」


クスッと笑いながらりりちゃんが教えてくれる。

『慶智の王子たち』とは、経済界を牽引する名家の御曹司たちのことである。

九条ホテル不動産の九条仁、伊集院総合法律事務所の伊集院涼介、近衛総合病院の近衛彰人、伊乃国屋コーポレーションの西園寺京、株式会社BON BONの西園寺雅。そして、烏丸悠士と大和を加えた五家七名を指す。烏丸家は代々西園寺家に仕えており、現在は伊乃国屋とBON BON両社の副社長職を務めていようだ。


「この七人が『慶智の王子たち』として話題になって騒がれていて、雑誌でも特集が組まれるくらいよ」

「えっ、そうなの? ごめん、知らなかった」

「いいわよ、知らなくても。今回あなたに受けてもらいたいのは、BON BONの社長秘書のポジションで、条件が美愛にぴったりなのよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。りりちゃんの大学、慶智って言ったら御曹司や御令嬢たちが通うところじゃないの? そんな人が作った会社で、一般人の私が何の取り柄もないのに役に立つわけがないよ」

「美愛あなたね、いい加減に自分を卑下するのはやめなさい! あなたは自分が思っている以上に素晴らしい能力を持っているのよ。まぁ、聞いて……」


りりちゃんによると、その条件とは、

1. 数カ国語に堪能

2. 秘書の経験がある

3. これが特に重要で、社長に対して色目を使わない