それから紗奈には毎日声をかけた。
相変わらず記憶は戻らないままだけど、それでもいい。
少しでも紗奈が記憶を戻すサポートができたらいい、
そう思っていた。
「紗奈ちゃんおはよう。」
記憶が戻るまで急に知らない人から呼び捨てで
呼ばれていたら不思議に思うかと思って、昔と同じ
呼び方に戻すことにした。
「陽向先生おはようございます。」
紗奈の呼び方も昔の呼び方に戻っていた。
それを聞くとまだ心が痛くなる。
それから色んな話をした。
他愛もない世間話が多かった。
話をする回数を重ねる度に紗奈の笑顔が見える回数が
少しずつ増えていた。
でも昔と同じ笑顔ではなく、
どこか寂しそうな笑顔だった。

