隣人はだらしない‥‥でも



『ねぇ‥茅葵って背中にホクロが3つ
 並んでるって知ってる?』


「ッ‥し、知りません‥‥そこ
 触らないでくださいっ!」


賃貸にしては広々とした浅めの
浴槽は、2人で入っても余裕だけど、
背後に感じる山岡さんの気配は
体操座りしながら気にしないで
いたいのに指先に反応している


『‥‥もう全部見たのに?
 まだ恥ずかしい?』


それとこれとはまた別!!!!


抱き合ってる時は与えられる気持ち良さ
や温もりに浸ってしまうけど、
いざシラフに戻ると恥ずかしい以外
言葉が浮かばない


「もう出ますっ!のぼせそうなので」


ザバンと勢いよく立ち上がると、
急いで浴室を出る私に笑い声が届き
山岡さんが出てくる前に慌てて
服を着た。


借りっぱなしだった山岡さんの服を
そのまま脱衣所に置いたのに、
結局髪はベタベタなまま下着一枚で
出て来た事に、予想はしてたけど
強引に服を着てもらった


「髪乾かしますからここに座って
 ください。」


『えっ?いいの?俺の方が長いから
 するの面倒じゃない?』


真っ白なバスタオルで適当に髪を
拭く姿すら色っぽくて美しい姿に、
今までこの人はどう生きてきたのかを
改めて知りたくなってしまう


歩く彫刻‥‥とでも言える容姿に、
どれだけの人を魅了して来たのかを
考えるとどうしようもないけど‥‥



『これ‥‥いつ描いたの?』


「あっ‥‥それは‥‥この間の
 撮影日の後で気付いたら沢山
 描いてました‥‥」


デスクトップに沢山無造作に置かれた
ままのデザイン画を手に取り、無言で
次から次へと見ている様子を
ドライヤーをかけながら気にしてしまう


あの時は山岡さんのことを
考えたくなくて、無心になりたくて
朝方まで描いてたから何を描いたのか
本人ですら忘れてる


「すごくダサい目標ですけど、
 いつか自分がデザインしたものが
 両親と姉の記憶に残るなら、
 自分の中でやっと過去を乗り越え
 られると思ってるんです。
 ハハ‥‥ほんと恥ずかしいですね。
 でもここに来て、相手の喜ぶものを
 つくれたときに満足感を得れること
 を見て、ただ描きたかったんだって
 気付き思いついたものをその時に
 こうして描いてるんです。」


真剣に働いてる人からしたら
呆れてしまうような目標だけど、
私には必要な目標だったから、
なしにはしたくない。