隣人はだらしない‥‥でも


「ん‥‥‥」


絡み合った舌と舌から伸びる唾液の
糸が切れると、色っぽく見えた山岡さん
の顔にあの時のような甘美な気持ちを
感じた


『茅葵‥‥好きだよ。』


こんな甘いキスをした後に、
こんな台詞を言われたら誰だって
頷いて喜ぶと思うのに、嬉しいはず
なのに涙が目尻から頬に流れ落ちる


「ッ‥‥‥怖い‥‥んです。」


泣いてる姿なんて見られたくなくて
両手で顔を覆うと、すぐにそれを
阻止され体をグイッと起こされた。


『怖いって‥‥俺が?』


大きく横に首を振り瞳を開けると、
心配そうに見つめる山岡さんが今度は
私を腕の中に閉じ込めた


温かい‥‥
この温もりを初めて知った時から、
こうならない事を願ってたのに‥‥


『大丈夫‥‥大丈夫だから‥‥。』


いつもの冗談混じりの山岡さんらしく、
女慣れしただらしない人なら、
この腕を跳ね除けれるのに、そんな
優しい声を出して抱き締められたら
ずっとここに居たいなんて願ってしまう


もうあんな思いはしたくない‥から



「すみません‥‥気が緩んでしまって、
 ご迷惑をおかけしました。」


泣き止むまでずっと手を繋いで
何も言わずにいてくれた山岡さんに
鼻声でお礼を伝えると、泣き腫らして
酷いであろう私の顔を両手で包んで
目元にキスを落とした。



「私‥‥大切な物が出来ると、
 全部失ってしまうんです。」


『失うって‥‥何故?』


この話を知ってるのは親友のマルだけ。


マルの両親は全部は知らないけど、
私のことをよく匿ってくれた。
話す事で、山岡さんが重いと感じ
離れていく事になっても、デザインの
仕事だけ続けたいなんて我儘かな‥


最初は女ったらしで、揶揄ってる
だけだと思っていたのに、真っ直ぐ
ぶつけられる気持ちに、いい加減な
気持ちで向き合ってはいけないって
思えるようになっていた


多分‥‥出会った時から私は
この人に救われてたから、惹かれるのは
時間の問題だった気もする



「私‥‥双子の姉がいるんです。
 姉はなんでもそつなくこなして、
 成績はいつも優秀で、明るく美人で
 欲しいものはなんでも与えられて
 育ったんです。それに比べて、
 人見知りが激しく失敗も多かった
 私は、いつも姉と比べられて育ち
 どんどん卑屈になった気がします。」


思い出しそうになると、体が
小刻みに震えてしまい、山岡さんが
もう一度私を抱き寄せた。