エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠


――ガシャン。

駅構内に設置された自動販売機の取り出し口に、ブラックコーヒーのボトル缶が落ちて来る。


「お前は?」

「え?」

「何飲む?喉乾いてねぇの」


私に視線を合わせて問う背の高い隣の彼に、はっとした私は慌てて頷き返した。


営業モードの時とは異なり、必要以上にベラベラと喋ることのないクールな紫苑の横顔はいつ見ても相変わらず綺麗だ。

思わず魅入られそうになってしまう衝動を抑えて自動販売機のドリンクに目を移し、ホットレモネードを指差した。


「レモネードな」


私の代わりにそのボタンを押し、音を立てて落ちて来たレモネードを取り出すと、彼は無言でそれを差し出す。


「ありがとう。紫苑は……またブラックなのね。アイスって、寒くないの?」

「寒くねぇよ。それに、今からどうせまた家具の配置やらで動くことになるし」


紫苑はそう言って、真顔でボトル缶のキャップを回す手に力を込めた。


「あっ。そうだ紫苑、ごめん!引越し代立て替えてくれてたって。レモネード代と一緒に……」

「想太郎が安くしてくれてラッキーだったな」


ボトル缶に口をつけた彼は再びそれを締めて、私が財布を取り出すのも待たずにホームへ下る階段をすたすたと降りていく。


「ちょっと紫苑!」


私は振り返ることなく進んで行く彼の背中を小走りで追いかけた。

ホームに着くと同時に丁度新宿行きの電車が到着し、そのまま歩を緩めずに車両に乗り込む彼に続いて私も車内へ。


「もう。置いてかないでよ」

「俺は脚が長いんでね。悪い悪い」


結局お金を受け取ってくれる気配のない彼にそれ以上何も言えず、窓に反射したその端正な顔立ちを何気なく見つめていた。