エリート狼営業マンの甘くてズルい魅惑の罠


その後、私の数倍の速さで荷造りを終えた想太郎くんは、時折他の作業中の紫苑に声をかけながらサクサクと事を進めていき――


「――ではこちらで搬出は以上となります!この後紫苑さんのご自宅までお届けしますね!回収した不用品は弊社にて適切に処分させていただきます!」


保護用に貼っていた壁や床の養生テープを全て剝がし終わると、トラックの前に立って、はつらつとした声でそう言った。



「ほ、本当に1時間で済んじゃった……!」

「まあ一応、自分もプロですので……」

「そ、そうだよね。ありがとう!あ、今お支払いしちゃってていいのかな?それとも全部終わってから?」



そこで財布を取り出しかけた私に、想太郎くんが待ったをかける。


「あ、実はお代は紫苑さんからお問い合わせいただいた時点でカード決済してもらってるんで結構ですよ!」

「え!?」

「紫苑さん、本当頼りになりますよね♪あんなにかっこよくてスマートな彼氏さんってなかなか見つからないと思うので、ぜひゴールインまで頑張ってくださいね!」


私の部屋の中で最後の確認をしてくれている紫苑がこの場にいないからか、そうウインクして耳打ちする想太郎くんに、上手い返しが思い浮かばず反応に困ってしまう。


「えーと……」


「近い」


「――!?」



と、その時だった。


てっきりまだ中にいるとばかり思っていた彼が、気付けば私のすぐ背後に立っていて。


「わっ……!ちょ、ちょっと紫苑っ!?」


急に体の重心が崩れたかと思えば、背中から抱きしめられるように回された腕が私の肩を掴んで、引き締まった硬い胸筋に頭がぶつかった。


「これ、俺のだから」


私の片耳にかかる彼の息がその距離の近さを実感させて、突然の事態に整理が追い付かなくなる。


わ、わかってる、わかってる。

彼女役はやっぱり始まってたってことなんだもんね!?


それはわかったけど、ちょっと行動が急すぎない!?しかも、こ、こんな――


「わ、わかってますよ!けん制しなくたってオレ、彼女さんにちょっかい出す気なんて微塵もないですから!ほら、彼女さんも真っ赤になって固まってますし!」

「俺の彼女ピュアだから、変な虫が近付くと危なっかしいし」

「変な虫って……。オレのこと何だと思ってんすか。ひどいっすよ、紫苑さん……」

「冗談だって。じゃ、俺たちもこれから電車で戻るから。想太郎、お前先に着いたらコンシェルジュに声かけた後連絡して。遠隔で玄関開けるから荷物入れてもらっていいし」


結局、やけにあっさりと私を開放した紫苑は、すぐにいつもの調子で想太郎くんにそう指示を出してから、スマホを取り出して何かを操作し始めた。

どうやらコンシェルジュデスクのスタッフさんに想太郎くんがこれから向かう旨を伝えているもよう。


「……了解っす。あー、なんか見せつけられて気が抜けたっすよー。じゃ、安全運転でお荷物お届けしておきまーす」


想太郎くんは最後に私に向けても一礼した後、トラックの運転席に颯爽と乗り込んで私の荷物を積んだ2トン車を走らせて行ったのだった。