神に選ばれなかった者達 後編

萌音は、たくさんの日記帳を持っている。

全部手書きの日記帳。

何十冊と、段ボール箱いっぱいに。

毎日毎日、萌音は日々の記録をつける。

その日、自分が何時に誰と何をしたのか。その時どんな風に感じたのか。

何を思い、何を感じ、どんなことを考えたのか。

何一つ忘れたくないから。萌音が生きたっていう証を。

いつか忘れてしまわないように、自分の生きた証を記録する。

それは病的なほどに、取り憑かれたように、萌音は毎日この作業に没頭する。

昔からそうだ。

そして、萌音は度々、それらの記録をつけた日記帳を読み返して、その日記をつけた当時のことを思い出す。

今、萌音の手元にある日記帳。

これは、萌音が赤ん坊の頃の日記だ。

萌音がおぎゃーとこの世に生まれたその日から、記録は始まっている。

…え?赤ん坊の頃に日記なんて書けないだろう、って?

その通りだ。

だからこれは、萌音がもっと大きくなって、学校に行って文字を習い出してから。

生まれた当時のことを思い出しながら、後付けで書いた日記に過ぎない。

…え?赤ん坊の頃の記憶なんて、とっくになくなってるだろう、って?

…うん。

普通の人だったら、そうなんだろうね。

でも萌音は、違うんだ。

何故か分からないけど、どういう訳でそうなってるのかさっぱり理解出来ないけど。

萌音は、覚えているのだ。

この世に生まれてから、今日に至るまでの全てを。

何もかも全部、頭の中に克明に焼き付いている。

どんな瞬間でも、決して忘れることがないように。