神に選ばれなかった者達 後編

萌音が、まだ荒れ荒れ萌音だった頃。

萌音は、毎晩のように悪夢を見ていることをパパとママに打ち明けた。

二人共、萌音のことを不気味だとは言わなかった。

むしろ、萌音のことを酷く心配してくれた。

当時萌音はまだ、自分が生贄だとは思っていなかった。

この悪夢について、分かっていなかった。

知っていれば、相談はしなかったんだけどな。

だって、相談なんて無意味だから。

パパとママは、萌音を連れて病院に行った。

最初に近所の小児科医院に行って、それから紹介状を出されて別の病院に行って。

そこでも匙を投げられて、もっと大きな病院を紹介されて。

県外にあるその大学病院に行く為に、パパはわざわざ仕事を休み、車で何時間もかけて移動して、受診した。

それでも、萌音の悪夢の原因は分からなかった。

当たり前だ。

こればかりは、当事者である萌音だって、未だによく分かってないのに。

赤の他人であるお医者さんに、分かるはずがない。

これは病気じゃないんだってこと、いくら萌音だって気づいてる。

薬でもカウンセリングでも、治すことは出来ない。

理由は分からないし原因も分からないけど、こんな不思議なことがあるのだ。

そう納得するしかない。

あれこれ検査したけれど、結局原因は分からず。

困り顔の小児科医に、「恐らくストレスが原因でしょう」と結論付けられた。

なんて言うか、当たり障りない結論だよね。

原因が分からないのだから仕方ない。

萌音が実の親の下から離れており、他人の親に育てられているということも。

萌音の悪夢を「ストレス」と結論づける要因の一つだったんだと思う。

遠くの病院に何度も通って、結局ストレスが原因、だなんて。

こんなことなら、わざわざ診察を受けに行く必要はなかったのに。

それでも偉いお医者さんに「ストレスが原因」だと言われたことを、パパとママは真に受けて。

萌音の「ストレス」の原因を、あれこれと考えてくれた。

萌音が少しでも久留衣家で快適に過ごせるように、たくさん気を遣ってくれた。

他の子供の面倒も見なきゃいけないのに、萌音の為に時間を割いて、労力を割いてくれた。

それは分かってる。

だから萌音は、「もう悪夢は見なくなったよ」と言わなきゃいけなかったのだろう。

心配してくれている、パパとママの為に。

でも駄目だった。

どんなに二人が手を尽くしてくれても、「ストレス」をなくす為に努力しても。

毎晩毎晩、バケモノ達はそんなパパとママの努力を嘲笑うように、萌音のもとに現れた。

何をやっても無駄なのだ。駄目なのだ。

原因はストレスなんかじゃない。

じゃあ何なんだよ、って言われても萌音には分からないけど。

例え久留衣家に引き取られず、自分の実家に育っていたとしても、この悪夢は変わらなかっただろう。

そう言い切れる根拠は、ちゃんとある。

原因は分からない、って萌音は言ったけど。

一つだけ、心当たりがある。

自室に戻った萌音は、自分の収納ボックスの中から、古ぼけた日記帳を取り出した。