神に選ばれなかった者達 後編

夕食後。

今日のお皿洗い当番と、自ら率先して手伝いを申し出た絵里衣ちゃんが。

キッチンの流し台に並んで、仲良くお皿洗いをしているのを横目に。

萌音は、自分の部屋に戻ろうと階段を上っていった。

すると。

「あ、萌音ちゃん」

2階から、洗濯物を抱えたママが降りてきた。

「…ママ…」

「萌音ちゃん…。…大丈夫?」

え?

「…?何が?」

「学校…。上手く行ってる?楽しい?」

…いきなりどうした、って思うかもしれないけど。

ママやパパがこう聞いてくるのは、珍しいことではない。

半分は冗談めかしていたけど、半分は本気だった。

…心配なんだろうね。

それだけ萌音が、これまで何度もパパとママに心配をかけてきたってことだ。

自覚はある。

だからって、今更どうしようも出来ないけど。

「大丈夫。楽しいよ」

「そう?…クラスメイトとトラブルになったりしてない?」

「してない」

…ね?

この質問だけでも、萌音が過去、いかに迷惑をかけてきたか分かるでしょ?

あの頃は…李優が、まだ萌音の傍にいなかったから。

自分でも、はっきりと自覚出来るくらい…荒れてた。

荒れ荒れの萌音ちゃんだった。

でも、今は…。

「心配しなくても大丈夫だよ」

「そう。それなら良いんだけど…。…それで、夜は?」

…夜?

「嫌な夢…最近も見るの?」

と、心配そうな顔のママ。

…あぁ。

大丈夫、それはいつものことだから。

「平気だよ」

萌音はそう答えた。

悪夢は毎晩のように見るよ。…見なかった試しがない、ってくらいに。

でも、平気。

だって今は、一人じゃないから。

「本当に?無理してない?」

「本当に大丈夫。…だから心配しないで」

「…そう…。…良かった」

と、微笑んではみせたけど。

内心、完全に安心した訳じゃないことは、ママの顔を見ればすぐに分かった。

しょうがないよね。

悪夢を見ているという事実は変わらない。

大丈夫、平気だと答える萌音の言葉は、嘘ではない。

悪夢は変わらず見ている。けど…李優がいるから大丈夫、ってだけ。

第一、「大丈夫じゃない」、「無理してる」と言ったとしても、ママにはどうすることも出来ない。

だから、これはただの気休めだ。

ママも分かってるし、萌音も分かってる。