神に選ばれなかった者達 後編

さて、そんな久留衣家のいつもの朝。

ママの心尽くしの朝ご飯を食べ、お弁当を受け取る。

「それじゃ、行ってきます」

私が声を掛けると、パパとママがこちらを振り向いた。

「行ってらっしゃい、萌音ちゃん」

「行ってらっしゃい」

パパとママ、それぞれに見送られ。

私は、今日も元気に家を出た。

現実は良いね。身体、何処も痛くなくて。

夢の中でどんなに痛い思いをしても、朝になるとリセットされるのが、あの悪夢の唯一の良いところだ。

昨夜は腕を潰されはしたけれど、一度も死ななかった。

お陰で、現実への「侵食」もない。

昔は、この「侵食」に酷く苦しめられたものだ。

そもそも、夢の中での死が、現実の侵食に影響するということさえ知らなかった。

夢の中でバケモノを殺せば、侵食は治まる。

それを知った時は、目から鱗だったっけな…。

そんなことを考えながら、通学路を歩いていると。

学生鞄のポケットに入れていたスマートフォンが、びびび、と振動した。

何だろう。

大方予想は出来ているけど。

道端に立ち止まって(歩きスマホはしないよ)、スマホを確認。

思った通り、スマートフォンは勝手に画面がついていて。

そこには、『処刑場』の掲示板が映し出されていた。

そういえば、この機能も、最初に知った時は凄くびっくりしたな。

だって萌音以外に、生贄に選ばれた人がいるなんて知らなかったし。

この『処刑場』で、初めてあの悪夢が、自分だけのものじゃないと知った。

…だから何だ、って話だけど。

夢の中での苦しみを、現実でお互いに慰め合っても、それが何になると言うのか。

ただの傷の舐め合いに過ぎない。

それでも、夢の中で見知った情報を、現実で共有出来るのは便利だった。

自分の知らない情報を入手することが出来る、またとない機会。

そして、今回もこの掲示板が役に立った。

メッセージを送ってきたのは、新人生贄の響也くんだった。

その響也くんの情報提供のお陰で、萌音は昨夜のあの場所が、実は病院だったのだと知った。

…てっきり火葬場だと思ってたのに、病院だったんだ。

そして、フロア間の移動が現状不可能であることも、互いに確認した。

これは翌日以降の話になるが、響也くんが『処刑場』で流暢に話していたのは、この日が最後となる。

翌日は、かろうじてみらくちゃんの呼びかけに、一言二言答えただけで。

明後日以降は、完全に音信不通となるのだが。

この日の萌音はまだ、そんなことになるとは思っていなかった。