神に選ばれなかった者達 後編

「なんか最近、ボーッとしてること多くない?みらく」

「…え?」

…病院の悪夢を見るようになって、10日ばかりが経った頃。

その日の朝、学校の教室で、私は女友達に声をかけられた。

「何々?恋煩い?」

と、茶化すように別の友達が言った。

「ま、まさか…。そんなんじゃないよ…」

「じゃあ、どうしたの?」

「…それは…」

…悪夢のことをこの子達に話したら、なんて言うだろう。

きっと冗談だと思うんだろうな。「それどんな作り話?」って、笑いながら。

私が本気だって気づいたら、今度はきっと、不気味だって、気味悪がるだろう。

そして、気持ち悪いものから離れるように、私から離れていくはずだ。

…相談してみたこともないのに、そんなことが分かるのか、って?

…分かるよ。

もし生贄になったのが私じゃなくて、ここにいる女友達の誰かだったら。

その子が、悪夢について相談してきたとしたら。

私はきっと、そうしただろうから。

…何の因果か、私が生贄に選ばれてしまったというだけで…。

「…別に、大丈夫よ」

だから、私はそう言った。

理解出来るはずがない。

同じ悪夢を見ている者にしか、決して理解出来ない苦しみなのだから。

「そう?…まぁ、みらくが恋煩いなんかする訳ないか」

「そうそう。みらくは、熱狂的なルトリアくん推しだもんねー」

と、女友達が笑った。

ルトリアくん、とは例の、『frontier』というアイドルグループのボーカルのことである。

私の学生鞄には、ルトリアくんグッズがたっぷりとつけられている。

さながら、痛バッグのよう。

ルトリアくんの缶バッジやら、アクキーやら、ラバストやら、キーホルダーやら。

教科書より、グッズの方が重いんじゃないかなってくらい、ジャラジャラと。

…そりゃこのバッグを見たら、誰だって「この人はルトリアくんが推しなんだ」って思うよね。

そう思わせることこそが、私の目的なのだ。

確かに、私はルトリアくんが好きだけど。

でも、そこまで熱狂的に好きって訳じゃない。

山のようにグッズを集めたい訳じゃないし、いつ如何なる時でもルトリアくんのことを考えていたい…ってほどではない。

「推し」と言えるのかどうかも、自分ではあまり自信がない。

だけど、女友達には皆、それぞれの「推し」がいる。

私と同じように『frontier』のメンバーだったり、他のアイドルグループのメンバーだったり。

俳優やモデルだったり、アニメや漫画のキャラだったり…。

…皆、誰かしら「推し」がいるんだもん。

「あなたの推しは誰?」って聞かれた時、「私には推しはいない」なんて言ったら、つまんない奴だって思われるでしょ?

だから、ルトリアくんが凄く好きだってことにして…。

別に、大して好きな訳じゃないのに、お金を注ぎ込んでいっぱいグッズを買って…。

…そうやって、ちゃんと大好きな「推し」がいる、面白くて話の分かる女子高生のように振る舞っている。