神に選ばれなかった者達 後編

このパパは、とても良い人である。

どれくらい良い人かって言うと。

「萌音ちゃんは偉いね」

「え?」 

「いや、起こさなくても、毎朝自分で起きてくれるから。助かるなーって」

「…」

…ほら。良い人でしょ?

全然褒めるところのない萌音のことを、こんな風に褒めてくれるんだもん。

良い人だよ。…李優の次くらいに。

「まったく、寝起きの悪い子達にも見習って欲しいよ…」

とか言いながら、パパは子供部屋に入っていった。

これからパパは、毎朝のお決まり行事を繰り返すのだ。

目覚まし時計が鳴ってもなお、まだお布団の中でぐずぐずしている子を起こすという、大事な役目があるから。

パパは、目覚まし時計みたいに、止めただけで静かになってはくれない。

子供達がちゃんと、全員お布団から出て、朝の支度をするまで、決して諦めない。

ぐずぐずしてたってどうせ起こされるんだから、自分から素直に起きれば良いのに、と思うけど。

まぁ、あの子達は萌音と違って、他に良いところがたくさんあるから。

ちょっとくらいお寝坊さんでも、ご愛嬌ってところだよ。

さて。早々に起きて、制服に着替えた萌音は。

そのまま二階から降りて、一階に向かった。

一階には、大きなリビングダイニングがある。

そこには、10人を越える家族が一度に座って食事をする為に、とっても大きなローテーブルが置いてある。

そして。

広いキッチンで、見慣れたエプロン姿の女性が、今日も忙しそうに、パタパタ動き回りながら料理の真っ最中だった。

この人がママである。

「ママ…。…おはよう」

「あら、おはよう、萌音ちゃん」

ママが、フライ返し片手に朝の挨拶。

ママの一日は、毎日、萌音や他の子供達より早く始まっている。

ご覧の通り、子供達の朝ご飯を作る為だ。

ママはこの家にいる子供達、全員のママだ。

お仕事はしていなくて、専業主婦である。

共働きが一般的となりつつある現代で、専業主婦とは珍しい、と思うかもしれないが。

しかしママには、11人の子供の世話をする、という大事な仕事がある。

これは並大抵のものではない。

例えば、ママが今せっせと作っている目玉焼き。

なんだ目玉焼きなんて簡単じゃん、と思ったそこのあなた。

13人分だからね。

作ってごらん。大変だから。

更に、朝ご飯に加えて、高校生以上の子供の為にお弁当まで作ってくれているのだ。

その苦労は並大抵のものじゃない。

それに、毎日の買い出しだって大変だよ。

食べ盛りの子供達がいっぱいいるんだもん。

この目玉焼きにしたって、一度に一パック以上の卵を消費している訳で。

毎日、毎食分、お米を炊くだけでも大変だと思うよ。

人間は毎日物を食べなきゃいけない訳で、つまりはこんな物凄い重労働を毎日、365日、一日三回も繰り返してるってこと。

うーん。萌音は将来、大家族の母親にはなりたくないかな。

その苦労を間近で見ているからこそ、自分にはとても無理だと思う。