神に選ばれなかった者達 後編

それを見て、空音いそらは。

「あぁっ…。酷い、のぞみの白魚のような手が…」

と言った。

…白魚のよう、ではないと思うが。

身体が満足に動かない今の状態で、空音いそらを敵に回すのは、あまりにも分が悪いからな。

余計なことを言うのはやめておこう。

「っ…。ちょっと待ってね、みらくさん…。今、助けるから…」

痛みに顔をしかめながらも、のぞみは手のひらから滴る血を、みらくの左腕の傷めがけて振り掛けた。

傷口に他人の血が触れるというのは、非常に不衛生で、良からぬ病気が伝染する恐れがある。

…はずだが。

この夢の中では、現実の理屈は通用しない。

驚いたことに、のぞみの血がみらくの傷口に触れるなり。

まるで魔法がかかったように、みらくの傷が癒え始めた。

…信じられないものを見ている気分だ。

「みらくさん…。破片を抜くから、少し我慢して…」

「っ!つ…」

のぞみはもう片方の手で、みらくの腕に突き刺さった破片を掴み。

その忌々しい破片を、一気に抜き取った。

どうやら、破片は神経にまで達していたらしく。

破片を抜き取るなり、みらくの曲がっていた腕が真っ直ぐに伸びた。

出血を抑えていた破片が抜き取られたことで、みらくの左腕から血が溢れたが。

その傷口に触れたのぞみの血が、傷口をゆっくりと閉じていった。

…そして。

「…終わりました」

ものの数分で、みらくの左腕の傷は完治した。

…まさに魔法だな。

現実では、決してお目にかかることは出来ないだろう。

夢の中だから、それも空音のぞみだからこそ出来る芸当だ。

俺もこういう能力が良かったな。

あまり役に立たない錐じゃなくて。

「萌音…。ちょっと、俺を降ろしてくれるか」

「ん?良いよ」

萌音に頼んで、俺は床に降ろしてもらった。

まだ身体に力が入らないが、それでも、みらくの傍に這っていくことくらいは出来た。

みらくが、俺を助けてくれたのだ。

ならば、せめて…。

「みらく…。みらく、大丈夫か?」

「…響也くん…。…うん、大丈夫」

致命傷だった左腕の傷が癒えたことによって、みらくの顔に生気が戻っていた。

…良かった。

「のぞみも…悪かったな」

「気にしないでください。このくらい、平気です」

空音のぞみは、手のひらから血を流しながらもにっこりと微笑んだ。

心から、誰かの役に立てることを喜んでいるように見えた。

「ほら、のぞみ。治療が終わったなら、のぞみも手当をして」

「はいはい、分かってるから…」

過保護な空音兄が、妹の手のひらを手当してあげていた。

…他人に自分の血を捧げることで、傷を癒やす…。

それはつまり、自分の治癒には使えないということだ。

果たして、どうして彼女には俺や空音兄のような武器ではなく、こんな特異な能力が与えられたのか…。

その理由は、俺の知るところではなかった。