神に選ばれなかった者達 後編

あわや、エレベーターを強奪されたことに気づいて奪還しに来た黒衣人間か、と思ったが。

「…!お前…空音いそら…」

そこにいたのは、鉄パイプを握り締めた生贄仲間。

空音いそらであった。

その隣には、探していた空音のぞみもいた。

「ご、ごめんなさい…!怪我はなかったですかっ…?」

その空音のぞみが、慌ててこちらに駆け寄ってきた。

「うん、萌音は平気」

神回避したからな。

「危ないところだった…。エレベーターが動いてるから、てっきりバケモノかと…」

と、空音いそら。

どうやら、お互いに同じことを考えていたらしいな。

萌音が神回避してくれていなかったから、その背中に背負われている俺も、ただでは済まなかっただろう。

「悪かった」

「ううん、良いよ。無事だったし」

普通、間違いとはいえ、鉄パイプで殴られそうになったら。

「危ないだろうふざけるな!」と逆ギレしてもおかしくないところだったが。

あっけらかんとした久留衣萌音は、その程度では怒らなかった。

…さすが、夢の中での熟練度が違うな。

「お前達がいるってことは…ここ、本当に二階なんだな」

と、李優が言った。

…そのようだな。

「あぁ、うん。二階だけど…でも、それより…」

「皆さん、どうやってここに…。エレベーターの鍵、どうやって解除したんですか?」

空音兄妹が、驚いた顔で聞いた。

…当然の質問だな。

しかし、それについては俺も説明のしようが…。

「くノ一さんに手伝ってもらったんだよ」

相変わらず、その返答なのか。

「く、くノ一さん…?誰?」

「くノ一さんはくノ一さんだよ」

「…あ、そう」

納得するのか。

あるいは、いちいち考えることを放棄したのか、どちらだ。

「…ごめん。現実に戻ったら、『処刑場』で詳しく説明するよ…」

言葉足らずな久留衣萌音に代わって、状況を知っている佐乱李優が、そう申し出た。

そうしてもらえると助かる。

如何せん俺は、ここ数週間ずっと眠っていて。

夢の中の状況を、よく理解していないからな。

…すると。

「…!あなたは…」

空音のぞみが、萌音の背中に背負われている俺に気づいた。

…果たして何と言ったら良いものか。

久し振り、とか?

元気にしていたか、とか?

…いや、この夢の中で「元気にしてたか」はないな。

元気なはずがない。…お互いに。

「良かった…。無事だったんですね、響也さん…みらくさんも…」

「…あぁ。心配をかけたな」

誰かが自分の目覚めを待っているかもしれない、なんて思ったことはなかったが。

こんな歓喜の表情で迎えられるのならば、案外、目覚めて良かったのかもしれない。