あの日。
ゾンビとの決戦が終わって、新たに悪夢の舞台が病院に変わったあの日。
響也くんは、決して簡易クローゼットの中から出てくるな、と言った。
そして私を、狭くて埃っぽい、でも安全な簡易クローゼットの中に押し込み、カーテンを閉めた。
その間に響也くんは、病院内を偵察してくると言って、手術室を出て行った。
…思えば、止めるべきだったのだ。あの時。もっと強く。
自分では、必死に止めたつもりだった。こんな得体の知れない病院、ゾンビ以上に恐ろしいものが潜んでいるに違いないから。
でも止められなかった。
だって、私の安全は確保されていたから。
もし響也くんに何かあっても、私は大丈夫。
だから私はきっと、無意識に、本気で彼を引き止めることをしなかったのだ。
…それに、響也くんならきっと大丈夫、って。
そんな慢心もあった。
響也くんは大丈夫。だって、私なんかより彼はずっと強い人だから…。
何かあったとしても、仮にバケモノに一回殺されたとしても…響也くんならきっと大丈夫。
…そう思い込んでしまっていた。無意識に。
死の痛みを、その苦しみを、私だって知っていたはずなのに。
どうして、彼なら大丈夫だって思えたんだろう。
決まっている。
…そう思い込む方が、私にとって気が楽だったからだ。
だからこそ。
…偵察中、バケモノに捕まった響也くんが、手術室に運ばれてきた時。
私は、身を挺して響也くんを庇うことが出来なかった。
あの日、彼が手術室に戻ってきた時。
私はそっと、カーテンの隙間から様子を覗いた。
物音がしたから、響也くんが戻ってきたんだと思った。
でも、すぐに「違う」と思った。
手術室に入っていた足音が、一つではなかったからだ。
明らかに、複数人の足音が聞こえた。
私は瞬間的に凍りつき、その場から動けなくなった。
そして、震えながらカーテンの隙間を覗き続けた。
真っ黒な服を着て、目だけを出した黒衣人間達が、手術台に横たわる響也くんを取り囲んでいた。
…あれが、今回のバケモノ?
まるで、普通の人間のように見える。
手術台に横たわる響也くんは、声を上げることも、逃げ出すこともなかった。
彼が持っていたはずの唯一の武器…錐は、彼の手から取り上げられていた。
響也くんは意識を失っているようだった。
彼が意識を取り戻したのは、それからしばらくしてから。
黒衣人間達の手によって、「手術」が始まる直前だった。
手術台の上で目を覚ました響也くんは、全身を黒いベルトで拘束されていた。
自分が動けない、死の運命を避けられないと、すぐさま悟ったのだろう。
彼は、簡易クローゼットの中で隠れている私を呼んで、「助けてくれ」と叫ぶ…。
…ようなことは、一切しなかった。
その代わりに、彼がしたことは。
私に向かって、「絶対に出てくるな」と言うことだった。
この期に及んで、目前に迫る自分の死よりも。
…私を、守ろうとしてくれたのだ。
ゾンビとの決戦が終わって、新たに悪夢の舞台が病院に変わったあの日。
響也くんは、決して簡易クローゼットの中から出てくるな、と言った。
そして私を、狭くて埃っぽい、でも安全な簡易クローゼットの中に押し込み、カーテンを閉めた。
その間に響也くんは、病院内を偵察してくると言って、手術室を出て行った。
…思えば、止めるべきだったのだ。あの時。もっと強く。
自分では、必死に止めたつもりだった。こんな得体の知れない病院、ゾンビ以上に恐ろしいものが潜んでいるに違いないから。
でも止められなかった。
だって、私の安全は確保されていたから。
もし響也くんに何かあっても、私は大丈夫。
だから私はきっと、無意識に、本気で彼を引き止めることをしなかったのだ。
…それに、響也くんならきっと大丈夫、って。
そんな慢心もあった。
響也くんは大丈夫。だって、私なんかより彼はずっと強い人だから…。
何かあったとしても、仮にバケモノに一回殺されたとしても…響也くんならきっと大丈夫。
…そう思い込んでしまっていた。無意識に。
死の痛みを、その苦しみを、私だって知っていたはずなのに。
どうして、彼なら大丈夫だって思えたんだろう。
決まっている。
…そう思い込む方が、私にとって気が楽だったからだ。
だからこそ。
…偵察中、バケモノに捕まった響也くんが、手術室に運ばれてきた時。
私は、身を挺して響也くんを庇うことが出来なかった。
あの日、彼が手術室に戻ってきた時。
私はそっと、カーテンの隙間から様子を覗いた。
物音がしたから、響也くんが戻ってきたんだと思った。
でも、すぐに「違う」と思った。
手術室に入っていた足音が、一つではなかったからだ。
明らかに、複数人の足音が聞こえた。
私は瞬間的に凍りつき、その場から動けなくなった。
そして、震えながらカーテンの隙間を覗き続けた。
真っ黒な服を着て、目だけを出した黒衣人間達が、手術台に横たわる響也くんを取り囲んでいた。
…あれが、今回のバケモノ?
まるで、普通の人間のように見える。
手術台に横たわる響也くんは、声を上げることも、逃げ出すこともなかった。
彼が持っていたはずの唯一の武器…錐は、彼の手から取り上げられていた。
響也くんは意識を失っているようだった。
彼が意識を取り戻したのは、それからしばらくしてから。
黒衣人間達の手によって、「手術」が始まる直前だった。
手術台の上で目を覚ました響也くんは、全身を黒いベルトで拘束されていた。
自分が動けない、死の運命を避けられないと、すぐさま悟ったのだろう。
彼は、簡易クローゼットの中で隠れている私を呼んで、「助けてくれ」と叫ぶ…。
…ようなことは、一切しなかった。
その代わりに、彼がしたことは。
私に向かって、「絶対に出てくるな」と言うことだった。
この期に及んで、目前に迫る自分の死よりも。
…私を、守ろうとしてくれたのだ。


