神に選ばれなかった者達 後編

眩しい光の中で、ゆっくりと目を開けると。

見覚えのある女性が、泣きじゃくりながらこちらを見下ろしていた。

「…!響也くん…」

「…み、らく…?」

さっきの天使…じゃ、なかった。

そこにいたのは、みらくだった。

夜蛾みらく。

そのみらくが、泣きながら俺を腕に抱いていた。

俺は自分の全身の痛みよりも、みらくが泣いていることの方が気になった。

「みらく…。…大丈夫、か…?」

また何かに襲われたのか。夢の中のバケモノに…。

…しかし。

「もう、馬鹿っ…。何でこんな時まで、私のことなのよ…。君の方が、よっぽど…」

…俺?

そういえば、さっきから…身体中が軋むような痛みを発している。

俺は…一体、何をしていたんだったか…。

…そうだ。思い出した。

ここは夢の中で…夢の中の病院で。

その病院の手術室で、俺は…。

「…俺は、何で生きているんだ…?」

ずっと…何度も殺されていたはずなのに。

気がつくと、あの拷問のような苦しみから解放されていた。

「…もう大丈夫だよ、響也くん」

みらくは涙声で、俺にそう言った。

「私が守るから…。響也くんがそうしてくれたように…今度は、私が…」

「…みらく…?」

「ごめんね、ずっと…私のせいで、辛い思いいっぱいさせて…」

…まさか。

俺は痛む身体に鞭を打って、何とか上体を起こした。

手術室の中は、めちゃくちゃになっていた。

俺が寝かされていた手術台は、跡形もなく木っ端微塵だし。

ちぎれた包帯やら、割れたガラス瓶やらの破片が床に散乱している。

それだけじゃない。

部屋の中も、俺も、みらくも血まみれだった。

床一面に、肉の破片のようなものが転がっていた…。

「みらく、お前…」

「…えへへ。私、頑張ったんだよ」

血まみれのみらくが、儚い笑みを浮かべた。

「お前…戦ったのか…?」

「私だって…たまには、やれば出来るんだから…」

「…」

…なんてことを。

この惨状は、みらくが作り出したもの。

あろうことかみらくは、自らの持つ手榴弾で、黒衣人間達を攻撃した。

奴らを爆発四散させることで、俺を救ってくれたのだ。

…信じられない。

みらくに、こんな度胸と行動力があるなんて思ってもみなかった。