神に選ばれなかった者達 後編

私としては、この場に響也くんを呼んで欲しかったのだけど。校内放送とかで…。

「階段はここを真っ直ぐ行って。3階についたら右ね」

中年の女性事務員は、つまらなさそうにそう言った。

…自分で行け、ってことだよね?

良いの?自称従姉妹ってだけの無関係の人間を、校舎の中を自由に歩かせて…。

…でも、これはチャンスかもしれない。

誰の目も憚ることなく、響也くんと話が出来る。

「あ、ありがとうございます…失礼しました」

余計な詮索をされる前に、早急にこの場を立ち去るのが吉。

私は事務室を出て、響也くんの教室を目指した。

初めて足を踏み入れるはずの校舎なのに、道に迷うことはなかった。

この校舎のことは、私はこの学校の生徒と同じくらい、よく知っているから。

確固たる足取りで、私は階段を登った。

ここは現実だと分かっているのに、ゾンビと鉢合わせするんじゃないかと不安になってしまった。

3階に辿り着くと、私はすぐに二組の教室に向かった。

丁度今は、休憩時間だったらしくて。

教室の中には、この学校の生徒達が互いに、楽しそうに談笑していた。

その光景は、私の学校のそれと変わらないように見えた。

こういうところは、どの学校も共通なのかも知れない。

「あ、あの…」

全く知らない教室に立ち入るのは、物凄く勇気が必要だった。

「…?誰?」

私服姿の私を見て、中に居た生徒が驚いていた。

そうだよね。そんな反応になるよね。

「あ、あの…萩原響也くんは、このクラスですよね?」

私は意を決して、その女子生徒にそう尋ねた。

「萩原…?あー、いたっけ。そんなヤツ」

いたっけ、って何?

自分のクラスメイトでしょ?

「響也くんに、忘れ物を渡したくて…あの、彼を呼んでもらえませんか…?」

「え?無理だよ」

えっ?

「な、何で…?」

「だってあいつ、学校に来てないもん」

えっ…?

「き、来てない…?どうして、ですか…?」

「さぁ?そんなの知る訳ないじゃん」

そ、それはそうか。

でも…その理由は、推し量ることが出来た。

「侵食」のせいだ。

毎晩のように夢の中で殺されているせいで、彼は現実を酷く「侵食」されているのだ。

最早、日常生活を送ることが出来ないほどに…。

…私のせいで。

そう思うと、胸がズキッと傷んだ。

…しかし。

あろうことか、響也くんのクラスメイトの女子生徒は、声を弾ませて言った。

「もうここ最近、ずーっと来てないよ。もう学校やめたんじゃない?」

「…」

…どうしてそんなこと、笑いながら言えるの?

「ま、今更来ても邪魔なだけだけどね。あいつの机も椅子も捨てちゃったし」

その子が笑いながらそう言うと、他のクラスメイト達もどっと笑った。

「…」

…どうして、そんなことをするの?