神に選ばれなかった者達 後編

驚くほどその校舎は、夢の中とまったく同じだった。

響也くんはあの夢の中で、「ここは現実で自分が通っている高校だ」と言った。

それを手がかりにして、ネットの画像を探しまくって、ここを見つけたのだ。

『処刑場』で連絡を取れない以上、現実で響也くんに繋がる手がかりは、ここしかないと思ったから。

…もうすぐだから、待っててね、響也くん。

私は心の中でそう呟いて、その校舎の敷地内に足を踏み入れた。

私は元々ビビりで、小心者だから。

知らない校舎に足を踏み入れることに、非常に緊張していた。

実を言うと、ここに来る間も、私はずっと怯えていたのだ。

色んな交通機関を乗り継いで、まったく土地勘のない、初めて来る場所に知らない土地にやって来るなんて。

ましてや、夢の中でしか会ったことのない、本当に現実に実在するかも分からない人物に会う為に。

我ながら、随分と思い切ったことをした。

自分で自分の行動力が信じられない。

…でも、このくらいのことが何だと言うのか。

響也くんが、私の為にしてくれたことを思えば。

立ち止まるな。…前に進むんだ。

意を決して、校舎の中に足を踏み入れる。

初めて来る校舎のはずなのに、私が迷うことはなかった。

夢の中で…何度も予習済みだから。

私は、まず学校の事務室に向かった。

勇気を出すと決めたけれど、事務室に声をかける時はさすがに、一瞬躊躇った。

…。

…よし。

「あ、あの…ごめんください」

「…?…どちら様?」

私は私服を着ていたから、この学校の生徒じゃないことは一目瞭然だったはずだ。

事務室の中にいた中年の女性事務員は、怪訝そうな顔で私を見つめていた。

思わずひるみそうになったけど、私は用意していた言葉を続けた。

「あ、あの、私…。響也くん…この学校に在籍している、萩原響也さんの、い、従姉妹なんです」

言うまでもないことだけど、これは嘘である。

でも、他に上手い言い訳が思いつかなくて。

まさか、「夢の中の知り合いで…」なんて言う訳にはいかないでしょ?

「はぁ…従姉妹…」

ヤバい。半信半疑の様子。

「わ、忘れ物を届けようと思って…。あの…彼を呼んできてもらえませんか?」

「その生徒、何年何組なの?」

「あ…。す、済みません。そこまでは分からなくて…」

「あぁ、そう…。ちょっと待って」

中年の女性事務員は、億劫そうに立ち上がり。

生徒の名簿らしきファイルを取り出し、そこに書かれている名前を確認した。

「萩原…萩原…」

「あ、あの、何組かは分かりませんけど、学年は一年生です」

「…あぁ、見つけた。これね」

女性事務員が、「萩原響也」という名前を見つけた。

…本当にあった。

やっぱり居たんだ。響也君は…現実に…。

自分で探していながら、そのことにびっくりしてしまっていた。

「一年二組みたいね。教室は3階にあるわ」

「…」

「…どうしたの?」

「あ、いえ、済みません」

思わず、呆然としてしまっていた。

いけない。怪しまれてしまう。