神に選ばれなかった者達 後編

「親が育てる価値がない、育てる必要がないと判断すれば、その子に餌は与えられない。巣から追い出されて、野生動物の餌食になるのがオチよ」

「…」

「それと同じ。私は無能を育てるつもりはない。私には、あなたを養育する義務はないの」

…それはつまり。

お前を育てることなんて、やめようと思えばいつでもやめられるんだからな。

…と、言っているのと同じだ。

これは俺にとって、非常に恐ろしいことだった。

俺は、この家以外に身寄りがなかった。

叔母を始め、母以外の他の誰かを頼ることなんて、考えもつかなかった。

他所の家は、俺にとって外国も同然だった。

生まれた時から、この家しか知らないのだから。

いきなり自分の生まれた国を追い出されて、外国で生きていけと言われても、途方に暮れるだろう?

今思えば、さっさと母に見限られていた方が楽だったのかも知れない。

世の中には、こんな狂った家ばかりがある訳じゃない。

今でこそそのことを知っているが、この時の俺には分からなかった。

母だけが、自分にとって神も同然だったのだから。

「それなのに私があなたを育ててるのは、そうする価値があると期待しているからよ。だからあなたには、自分の価値を示す義務がある」

ほら、始まった。

俺を精神的に追い詰める時の、母のいつもの常套句だった。

「餌を与えてもらって、巣の中に住まわせてもらうには、それなりの代償が必要なのよ。分かるわね?」

「…はい…」

俺は頷いたけど、本当は分かっていた訳じゃない。

ただ、幼い頃から何度も、そう言い聞かされていたから。

こういう時、決して母に口答えしてはいけないということは、はっきり分かっていた。

母はいつでも、俺を捨てることが出来る。

母が「用済み」と判断すれば、俺は使い終わったちり紙のように、簡単に捨てられてしまう。

そして、母は俺を捨てることに、一切躊躇うような人ではない。

母にとって価値のないものというのは、それが例え実の息子であっても、ちり紙と同じなのだから。

「さほど難しいことじゃないでしょう?何故それが出来ないの?あなたは無能なの?出来損ないなの?」

「…申し訳ありません…」

「謝るなと言ってるわよね?何度言ったら分かるの?」

「…す、すみ…。いえ…。…はい…」

思わず「済みません」と言いそうになって、慌てて口をつぐんだ。

どうしたら良いのか分からなかった。

ただ、母に「お前には失望したから、もうこの家から出ていけ」と言われることを恐れていた。

毎日のように、俺はそのことを恐れていた。

母が口を開く度に、俺は怯えていた。

「次は…次こそは、必ず…」

何とか母に許してもらおうと、俺はそう言った。

本気だった。

母に見捨てられない為なら、今度こそ死物狂いで努力するつもりだった。

しかし、俺が何を言おうと、それは母の逆鱗に触れるだけだった。

「…何を言ってるの?」

「…っ」

その声の冷たさに、俺は身を竦ませた。