神に選ばれなかった者達 後編

試験結果が返ってきた日、俺は自宅で、床に座っていた。

母は椅子に座って、先程開封したばかりの試験の解答用紙を眺めていた。

その間、俺は床に座って震えていた。 

裁判で、死刑の判決を受けるのを待っているようだった。

しばらく母は、そのまま解答用紙を眺めていたが。

価値のないものを捨てるかのように、ポイッ、と床に解答用紙を投げ捨てた。

非常に潔癖で、床に髪の毛一本、糸くず一つでも落としたら、すぐさま拾い上げるような人だった。

それでも、そんな母が床に解答用紙を投げた。

これは、母がよくやる手の一つ。

一種のパフォーマンスのようなものだ。

「私はこんなに怒っているのよ」とアピールしているのだ。

母は決して俺を怒鳴ったり、殴ったりはしなかった。

それでも俺は、母が怖かった。

滅多に怒ることのない母が、とても怖かった。

「…それ、一体どういうこと?」

母は、床に落とした解答用紙を指差しながら聞いた。

どういうこと、と言われても…。

「そ、れは…その…」

「何?さっさと答えて」

時間の無駄よ、と言わんばかり。

「あの…ご、ごめんなさい…」

他に言うべき言葉が見つからなかった。

母が定めた今回のボーダーラインは、100点満点中90点。

そして今回俺の試験の点数は、100点中87点だった。

たった3点くらい良いじゃないか、と思うかもしれないが。

母にとって、何点足りないかなど問題ではない。

母の決めた基準に達しなかった。これが問題なのだ。

「何に謝っているの?」

「え…。それは…言われた通りの点数を取れなかったから…」

「そう。でも、別に謝らなくて良いのよ。謝ったって結果は何も変わらないんだから」

この言い草である。

母がいかに容赦のない性格をしているか、分かるというものだろう?

「あなたがどんな成績を取ろうと、それは自己責任だから構わないわ。私が聞いてるのは、どうして努力を怠ったのか、ってことなの」

「…」

努力を怠ったつもりはなかった。

俺はいつだって必死だった。

必死でなきゃ、この家では暮らせなかった。

「努力を怠るのは無能な愚か者よ。あなたもそうだったのね」

「そ、そんなことは…」

「それじゃ、それはどういうことなの?」

「…」

母は、再び87点の解答用紙を指差した。

…どう答えたら良いのか分からなかった。

何が出来ると言うのだろう。

俺はその場に膝を付き、頭を擦り付けるようにして謝罪した。

所謂、土下座である。

「ごめんなさい…。僕は無能な愚か者です。許してください…」

これが小学校低学年の台詞なのだから、我が家の教育の恐ろしさが分かるだろう?

俺はいつだって、母と話す時は敬語だった。

そうすることを強制された訳じゃない。

ただ、母は自分の養育者であり、絶対君主だった。

君主に対して、タメ口で話せるはずがない。

しかし、母は床に土下座する俺を、冷たい目で見下ろした。

「だから、謝らなくて良いの。さっきも言ったでしょう」

「…」

「…良い?無能な子を懇切丁寧に育てるのは人間くらいのものよ。自然界では、無能は自然と淘汰されることになっているの」

母は、いつもの持論を語り始めた。