神に選ばれなかった者達 後編

さて、萌音と李優は、ママが持ってきてくれたアイスティーを飲みながら。

「いつも思うけど、良い人だよな、おばさん…」

と、李優が口にした。

「ほぇ?」

「ほぇ、じゃなくて…。久留衣のおばさんだよ。良い人だなって」

…うん。

それは、萌音もそう思うけど…。

「…李優、駄目だよ」

「は?何が?」

「いくら萌音のママが好きでも。ママにはパパという旦那さんが…」

「ちょっと待ておい。そういう意味じゃない」

えっ?

「人妻を好きになっちゃって、『あっ』な関係になろうとしてるんじゃ…」

「やめろ。何処で覚えたんだそんなこと」

「まほろ君が教えてくれた」

「…あいつ、今度会ったら殴ろう」

わー。李優過激。

まほろ君が殴られちゃうよ。可哀想。

「ともかく、俺にはそんな趣味はない」

「そうなの?」

「当たり前だろ…。大体、俺には既に萌音が…」

萌音?

「…萌音が、何?」

「えっ?」

「既に萌音が…何?」

そう聞き返すと、李優はしばし、金魚みたいに口をパクパクさせ。

そして、ぐるりと視線を一回転させて、そっぽを向いた。

「べ、別に…何でもねぇよ」

「何でもないの?」

「い、良いからもう…その話は」

わー。

李優、あれだ。…ツンデレだね。

「萌えー」

「何言ってんだお前は…」

思ったことを素直に言っただけだけど。

「ただ、久留衣のおばさんは…おじさんもだけど。萌音のことよく分かってくれてて…。良い人だなって、そう言っただけだよ」

「そっか」

それは、萌音もそう思うよ。

良い人だよね。…萌音には勿体ないくらいに。

「この世にいるのがあんな聖人ばっかりだったら、世界はもっと平和になるだろうに…」

李優は、ぽつりと呟いた。

もしそうなったら、優しさが当たり前の世界になるね。

…現実は、の話だけど。

「…って、こんな話してる場合じゃないんだった」

「何で?」

「…あのな、萌音。俺…昨日の夜のことを話しに来たんだ」

昨日の夜。

まだ夢が覚めて数時間しか経っていないのに、もうずっと昔の出来事のように感じるね。

萌音達は昨夜、夢の中の病院を攻略した。

地下、一階、二階、三階…それぞれのフロアにいるバケモノ達を、萌音達と同じ生贄仲間の皆で、それぞれ殲滅して。

そして、昨夜ついに…最後に残っていた四階も攻略し終わったのだ。

拍手喝采で喜ぶ…ところかのかもしれないが。

萌音にとっては、最早祝うべきことでも何でもない。

一つバケモノの世界を攻略したら、また次が出てくるだけだから。

悪夢に終わりはない。決して終わりなど来ないと知っているのだから。