それからはあれよあれよ、トントン拍子に話が進んだ。
久留衣家から受け入れの連絡が来るなり、萌音は父親と一緒に、荷物をまとめた。
さっさと萌音を追い出したい。そんな意志を感じた。
萌音が出ていくことに決まってからも、萌音母は少しも優しい言葉をかけてくれなかった。
それどころか、「いなくなってくれてせいせいするわ」と言わんばかりの態度だった。
そしてこれ見よがしに、真理亜ばかりを構った。
荷物をまとめてから、実際に家を出るまでの数日間は。
萌音にとって、ずっと夢うつつのような気分だった。
現実感が伴わなかった。全部、悪い夢なんじゃないかと思った。
皮肉なものだ。
実際夢の中では、現実よりももっと酷い苦しみを味わっているのに。
今だけは、夢よりも現実の方が、ずっと残酷なように見えた。
このまま永遠に、時間が止まってしまえば良いのに。
萌音は、荷造りした大きなスーツケースを見ながらそう思った。
だけど、時間の流れは萌音を待ってくれない。
あっという間に、萌音が実家を出る日がやって来た。
その時になっても、まだ幻想の中を生きているようで。
スーツケースを手にしてもまだ、現実であるとは思えなかった。
日帰り旅行にでも出掛けるような気軽さだった。
でも、これは日帰り旅行じゃない。
次はいつ帰ってこられるか分からない、さながら兵士の出征のようなものなのだ。
萌音が出発するその日、萌音母は家にいなかった。
真理亜を連れて、いつもの定期検診に行っていた。
見送りにさえ来てくれなかった。
お母さんは、私のことなんて本当にどうでも良いんだな。
萌音はそう思った。
結局、駅までついてきてくれたのは、萌音父だけだった。
最初、萌音父は、待ち合わせ場所である久留衣家の最寄り駅まで一緒についてきてくれる予定だった。
…だけど。
新幹線のチケットを取る段階で、萌音は言った。
「お父さん…。萌音、一人で行く」
「え?」
それは、萌音の最後の意地だったのだろう。
私はあなたなんて要らない。
あなた達が私を必要としないように、私だってもう、あなた達なんて必要ない…。
その意志の現れだった。
「でも…萌音…」
「平気。一人で行ける」
萌音はそう言い張った。
ある種の試し行動でもあったのだろう。
萌音のことを愛しているなら、本当に心配してくれているのなら。
萌音が何と言おうと、「いや、一人なんて危ない」と言って、一緒についてきてくれるはずだった。
萌音のことを愛してくれているなら。
…だけど。
「…そうか…。…分かった、それじゃ気を付けて行くんだぞ」
萌音の父は、萌音と一緒に来てくれなかった。
そして、萌音に一人分の新幹線のチケットを差し出した。
この行動で、僅かに残った父親に対する信頼や愛情が、塵のように消し飛んだ。
本当に、もう終わりなんだな、と思った。
父親は、新幹線の改札までついてきてくれた。
多分、萌音の背中が見えなくなるまで、その場で見送ってくれていたのだろうが。
萌音は、一度も振り返らなかった。
久留衣家から受け入れの連絡が来るなり、萌音は父親と一緒に、荷物をまとめた。
さっさと萌音を追い出したい。そんな意志を感じた。
萌音が出ていくことに決まってからも、萌音母は少しも優しい言葉をかけてくれなかった。
それどころか、「いなくなってくれてせいせいするわ」と言わんばかりの態度だった。
そしてこれ見よがしに、真理亜ばかりを構った。
荷物をまとめてから、実際に家を出るまでの数日間は。
萌音にとって、ずっと夢うつつのような気分だった。
現実感が伴わなかった。全部、悪い夢なんじゃないかと思った。
皮肉なものだ。
実際夢の中では、現実よりももっと酷い苦しみを味わっているのに。
今だけは、夢よりも現実の方が、ずっと残酷なように見えた。
このまま永遠に、時間が止まってしまえば良いのに。
萌音は、荷造りした大きなスーツケースを見ながらそう思った。
だけど、時間の流れは萌音を待ってくれない。
あっという間に、萌音が実家を出る日がやって来た。
その時になっても、まだ幻想の中を生きているようで。
スーツケースを手にしてもまだ、現実であるとは思えなかった。
日帰り旅行にでも出掛けるような気軽さだった。
でも、これは日帰り旅行じゃない。
次はいつ帰ってこられるか分からない、さながら兵士の出征のようなものなのだ。
萌音が出発するその日、萌音母は家にいなかった。
真理亜を連れて、いつもの定期検診に行っていた。
見送りにさえ来てくれなかった。
お母さんは、私のことなんて本当にどうでも良いんだな。
萌音はそう思った。
結局、駅までついてきてくれたのは、萌音父だけだった。
最初、萌音父は、待ち合わせ場所である久留衣家の最寄り駅まで一緒についてきてくれる予定だった。
…だけど。
新幹線のチケットを取る段階で、萌音は言った。
「お父さん…。萌音、一人で行く」
「え?」
それは、萌音の最後の意地だったのだろう。
私はあなたなんて要らない。
あなた達が私を必要としないように、私だってもう、あなた達なんて必要ない…。
その意志の現れだった。
「でも…萌音…」
「平気。一人で行ける」
萌音はそう言い張った。
ある種の試し行動でもあったのだろう。
萌音のことを愛しているなら、本当に心配してくれているのなら。
萌音が何と言おうと、「いや、一人なんて危ない」と言って、一緒についてきてくれるはずだった。
萌音のことを愛してくれているなら。
…だけど。
「…そうか…。…分かった、それじゃ気を付けて行くんだぞ」
萌音の父は、萌音と一緒に来てくれなかった。
そして、萌音に一人分の新幹線のチケットを差し出した。
この行動で、僅かに残った父親に対する信頼や愛情が、塵のように消し飛んだ。
本当に、もう終わりなんだな、と思った。
父親は、新幹線の改札までついてきてくれた。
多分、萌音の背中が見えなくなるまで、その場で見送ってくれていたのだろうが。
萌音は、一度も振り返らなかった。


