神に選ばれなかった者達 後編

これまでも、何度も「そうかもしれない」と思いながら暮らしてきた。

私は必要ないのかも、私は愛されていないのかも…。

やっぱりそうだったんだ。

私、もう要らないんだ。

だから家から追い出されるんだ。

この家には父と母と、それから真理亜だけが残る。

両親に必要なのは健常児である萌音ではなく、障害を持つ真理亜なのだ…。

じわじわと、萌音の中に黒い感情が広がっていった。

「どうだ?萌音…。お前にとっても良い体験になると思うんだ」

何が「良い体験」だ。

言葉を取り繕うにしても、さすがに無理があるぞ。

親元を離れて他人の家で暮らすことの、何が「良い体験」なんだ?

留学じゃないんだぞ。

まだ萌音は六歳なのに。こんな小さい子供を、ろくに愛情を注がれてこなかった子供を。

まるで厄介払いのように、他人の家に預けようなど。

「…どうしても、萌音が行かなきゃ駄目なの?」

萌音はそう尋ねた。

逆だろう。

「萌音が」家を出るのはおかしい。

よそに預かってもらうなら、真理亜にすべきだろう。

そして、親子関係を上手く結べていない両親と萌音、三人の時間を持つべきだった。

…それなのに。

「…ごめんな、萌音…」

萌音父は、申し訳無さそうに謝った。

「母さんは今、真理亜のこともあって心が限界なんだ。冷静になる為にも、少し離れていた方が良いと思うんだ」

あんたが心配するのは、萌音じゃなくて自分の嫁なのか。

何で萌音を追い出さなきゃいけないんだ。

萌音は、何も悪いことなんてしてないのに…。

「それに、ずっとじゃない。少し離れていれば、冷静になるだろうから…。そうしたら、また迎えに行くよ」

「…本当に?」 

「あぁ、本当だ。…約束するよ」

「…」

そう言われて、萌音は小さく、こくりと頷いた。

頷くしかなかった。

萌音が里子に出されるのは、両親にとって既に決定事項だった。

萌音が抵抗しても…いくら嫌だと言っても…丸め込まれるのがオチ。

私は家から追い出されるんだ。

萌音は、はっきりとそう思った。

こうして、萌音は久留衣家に里子に出されることが決まった。

久留衣家は実家から遠く離れていて、新幹線の距離だった。

子供の萌音には、とてもじゃないけど、気軽に帰ってこられる距離じゃない。

萌音父曰く、もっと近くの里親の家には、空きがなかったそうで。

渋々、遠方の久留衣家に決めたらしいが。

萌音にはそんな大人の事情、わからないから。

「私の顔も見たくないんだ。だからこんなに遠くの家にやるんだ」と思った。

それでもこの時萌音は、まだ一縷の望みを抱いていた。

…だって、父親は言った。

いつかまた迎えに来てくれるって。約束だって。

…約束。

儚い言葉だった。

幼い萌音は必死に、その言葉に縋ったけれど。

結局、十年以上経った今も、その約束は果たされていない。