神に選ばれなかった者達 後編

萌音の母親は涙を流し、半狂乱になりながら、「もうこの子とは一緒に暮らせない」と言った。

この子とは、つまり萌音のことだ。

父親の前で萌音をモノのように指差して、そう言ったのだ。

事の経緯を聞いた萌音の父親は、母を何とか宥めようとした。

「萌音は何も悪くない」

「悪気があった訳じゃない」

「真理亜のことは、親が背負うべき責任だ」

と、もっともなことを訴えた。

しかし、最後の台詞に萌音母は激昂した。

「私が悪いって言うの!?」

「そうは言ってない。今日のことは、誰にも責任はない。無事だったんだから、別に誰も責めなくても、」

「じゃあ無事じゃなかったらどうするのよ?あの子がちゃんと見てくれてたら、こんなことにはならなったのに!皆あの子の責任よ!」

ヒステリックに叫ぶ萌音母。

俺がこの場にいたら、「いや、あんたの責任だよ」と容赦なく言っていたに違いない。

何で萌音のせいにするんだ。責任転嫁も甚だしい。 

元はと言えば、あんたがちゃんと鍵を締めてなかったのが原因だろ?

自分の不注意が招いた事故なのに、どうして萌音のせいにするんだ。

「萌音のせいじゃない。萌音は何も…」

「あなたはいつもそうやって、あの子を庇うのね。そんなだからいつまで経っても、あの子は態度を改めないのよ」

今度は、父親を糾弾し始めた。

「あなたがちゃんと叱ってくれないから。甘やかしてばかりいるから!」

この女は、他人に責任を押し付けなければ気が済まないのか。

自分が悪者になりたくないばかりに。

「だから、あの子があんなに我儘になったのよ。あんな優しさの欠片もないような子に…」

「『あの子』じゃない。萌音だ」

萌音父は、はっきりとそう言った。

萌音母がさっきから、ずっと萌音のことを名前で呼ばず。

ひたすら「あの子」呼ばわりしていることに気づいていた。

「忘れちゃいけない。萌音だってまだ子供なんだ。真理亜のことと萌音のことは、別に考えてやらなきゃ、」

「嫌よ。もうまっぴらよ!あなたがそんなに『あの子』を庇いたいなら、好きにしたら良い。私はもう嫌!」

「…」

はっきりとした、拒絶の言葉だった。

萌音父は、まだ何か言おうとしたが…結局は何も言わなかった。

これほど酷く取り乱しているのだ。今何を言っても、まともな会話など出来そうになかった。

「もう、あの子の顔なんて見たくないわ!」

萌音母はそう叫ぶなり。

未だ泣き止まない真理亜を抱いて、別室に逃げた。

残された、萌音と父親は。

「…心配するな、萌音。今、母さんは動転してるだけなんだ」

萌音父は、優しくそう言ってくれた。

しかし、さすがに疲れた顔をしていた。

自分の妻のことを信じてやりたい。萌音のことも…味方をしてやりたい。

その板挟みになって、父親も疲れてるんだろうと思った。

やっぱり、父親だけは味方だ。

萌音はそう思った。

しかしそんな淡い希望は、うんざりしたような表情で漏らした、次の一言で打ち砕かれた。

「…お前が、もう少し上手く立ち回ってくれたらなぁ…」

「…!」

それは、決して言ってはいけない言葉だった。