神に選ばれなかった者達 後編

夢の中での経験で、突然の危機察知能力には優れているはずだった。

しかし、これは完全に不意打ちだった。

寝起きでぼーっとしていたところに、まさか母親に殴られるなんて思ってもみなかった油断から。

萌音らしくもなく、まともにその一撃を食らってしまった。

「何やってるの?何で真理亜のことを見ていてくれないのよ!?あなた、お姉ちゃんでしょう!?」

萌音母は、ブチギレ。

確かに、萌音はお姉ちゃんだけれど。

真理亜から目を離したのは、母親の責任じゃないのか。

「真理亜がどうなっても良いってこと?そんなに冷たい子なの、あなたは!?」

「…そ、んな…」

それは責任転嫁というものであって、萌音は何も悪くない。

…しかし。

「これまで我慢してきたけど、もう我慢出来ない…。あなたみたいな冷たい子、産まなきゃ良かったわ!」

いくら腹が立っていても。いくら真理亜のことが心配で、気が動転していたとしても。

それは決して、子供に言ってはいけない言葉だった。

萌音はその言葉に、酷くショックを受けた。

これまでずっと、「そう思ってるのかもしれない」と心の何処かで思っていた。

でも、はっきりと言葉にされることはなかった。

こうしてはっきりと「産まなければ良かった」と言われて、萌音の中にあった疑念は…。

「自分は母親に必要とされていないのかもしれない」という疑念は、確信に変わった。

やっぱりそうなんだ、と思った。

やっぱり私は、お母さんに必要とされてなかったんだ…と。

この言葉に萌音がどれほど傷ついたか、想像するだけで俺は心が痛くなる。

「他人に優しく出来ない人間は、自分も誰にも優しくしてもらえないんだって、思い知ると良いわ!」

そう吐き捨てるように言って、萌音母は外に飛び出していった。

恐らく、妹の真理亜を探しに行ったのだろう。

幸い、妹はすぐに見つかった。

一人で外に飛び出したところを、近所で井戸端会議をしていた主婦達に見つかり。

交番に連れて行かれ、そこで保護されていたらしい。

真理亜はひたすら泣き喚くばかりで、自分の名前も住所も言うことが出来ないから、交番にいた警察の人達も手を焼いていたようだ。

そこに萌音母が飛び込んできて、何とか事なきを得た。

…けれど。

真理亜こそ無事だったものの、家庭内の環境はめちゃくちゃになった。

特に、萌音と萌音の母親との間に、大きな亀裂が入ってしまった。