神に選ばれなかった者達 後編

いつだって、萌音は大人しく一人で待っていた。

一人ぼっちで留守番させられても、お昼ご飯を何も用意されていなくても、じっと耐え忍んでいた。

だけど、萌音は何も、一人でも平気だった訳じゃない。

人並みに寂しかった。置き去りにされて辛かった。

家に両親がいる時でも、両親の関心事はいつだって、真理亜ばかりだった。

真理亜の為に、◯◯地区にある支援施設に…。

何処どこにいる障害児教育の先生が、真理亜に合ってるかもしれない…。

どんな本に載っていた方法を、真理亜にも試してみよう…。

両親が話題にするのはいつだって、真理亜のことばかり。

真理亜が何か出来るようになれば、手を叩いて褒めちぎるのに。

萌音が同じことをしても、いや、もっと難しいこと成し遂げても、褒めてくれなかった。

萌音母にとって、萌音はどんなことでも自分で出来て当然なのだ。

だって萌音は健常児なのだから。真理亜とは違うのだから。

妹の真理亜は褒められるのが当たり前で、姉の萌音は褒められないのが当たり前…。

そんな環境が、萌音にとって酷く苦痛だったのは言うまでもない。

萌音だって、健常児とはいえ、まだ子供なのだ。

出来ないことはいっぱいあるし、難しいことだってたくさんある。

出来て当たり前、なんてことはない。

少し考えれば分かるはずだった。

しかし、萌音母は真理亜の心配をするばかりで、萌音に対してはほとんど関心が向かなかった。

…それどころか、萌音のことを…疎ましく思っていた。じれったく思っていた。

萌音が、真理亜の世話を全くしなかったからである。

両親の関心を奪われて、両親の愛情まで奪われて、一人で留守番ばかりさせられて。

その原因を作った妹を、素直に可愛がってやれる姉が何処にいるんだ。

萌音は元々天然の気があるけど、さすがにそこまで鈍感じゃないぞ。

ただでさえ妬ましく思っていた妹が、ついには自分から完全に両親を奪い取り、独り占めしてしまった…。

萌音は無意識にそう感じていた。

だから、余計に妹に対してそっけなく接してしまった。

萌音母は、そんな萌音の態度が気に入らなかった。

どうして真理亜の世話をしてあげないの?自分の妹なのに、可愛くないの?

可哀想だと思わないの?私達親がこんなに大変な思いをしているのに、少しくらい力になってあげようと思わないの?

萌音母は、容赦なくそんな言葉をぶつけた。

萌音は何を言われても、言い返さなかった。

言い返してどうにかなる問題じゃなかったし。

余計なことを言って、これ以上両親に嫌われるのも嫌だった。

あの時俺が実体を持つ人間だったなら、萌音の代わりに言い返してやったのにな。

「子供の世話をするのは姉の役目じゃない。親の役目だろ!」って。

あの母親、勝手に萌音を真理亜のお世話要員に数えてやがる。

これで、父親まで萌音母と同じように萌音をお世話要員扱いしていたら。

萌音にとっては、何の救いもなかっただろう。

とてもじゃないけど耐えられなかっただろう。

しかし、そんな状況でも、父親だけは。

萌音父だけは、萌音の味方をしてくれた。