神に選ばれなかった者達 後編

数ヶ月に及ぶ話し合いの結果、異母妹の名前は「真理亜」に決まった。

話し合いの最中、しょっちゅう、両親は萌音に聞いてきた。

「妹の名前、何が良いと思う?」って。

萌音の両親は、萌音に、妹に対する興味を持って欲しかった。

他の子みたいに、妹のことを可愛がり、お世話をしてあげる優しいお姉ちゃんになって欲しかった。

それに萌音の両親は、萌音が生まれた時の記憶を持っていることを知らなかった。

もし知っていたら、萌音が自分の生い立ちを知っていたら。

素直に妹の誕生を喜べるはずがないと、すぐに気づいたはずだ。

だけど、知らなかった。当然だ。

生まれた時のことなんて、覚えている方が稀なのだ。

いくら促されても、母の大きなお腹を撫でても、妹の名前を相談されても。

萌音は何も答えなかった。ただ心の中で、「私は望まれなかったのに…」と呟くばかりだった。

それに、母親が妹の名前を考えていることが、気に入らなかった。

萌音の時は、母は萌音の名前を考えることを拒否した。

だから、父親が独断で名前を決めたのだ。

それなのに妹は…両親揃って、名前を考えてもらっている。

そのことが、酷くもやもやした。心に引っ掛かった。

恐らくそれは、嫉妬と呼ぶべき感情なのだろう。

しかし。

萌音がいくら一人でモヤモヤしていても、関係ない。

段々と母のお腹が大きくなって、そしてある日、母は激しい痛みに襲われた。

前回、萌音を出産した、大きな産婦人科に入院して…そこで。

萌音の両親夫妻にとって二人目の女の子である、萌音の妹、「真理亜」が誕生した。

真理亜が生まれた時、萌音と父親は出産に立ち会っていた。

そこで生まれた子を、母は涙を流しながら抱き上げた。

本当に幸せそうな顔で、生まれたばかりの妹の顔を覗き込み。

「生まれてきてくれてありがとう」と言った。

萌音にとっては、心を抉られるような光景だった。

自分の時はああじゃなかった。

生まれた瞬間、母親に突き飛ばされた。その後退院して家に帰るまで、一度として抱っこしてもらったことはなかった。

あんな風に、色んな人に祝福されて生まれてきた訳じゃなかった…。

母に抱かれるしわくちゃの妹が、酷く眩しく見えた。

あの子は必要とされてたんだ。

私は必要とされてなかったのに。

そんなどす黒い気持ちで、心の中がいっぱいで。

母の次に妹を抱き上げ、その顔をしげしげと見つめた父親が。

次に、萌音に妹を差し出してきた時も。

「お前の妹だぞ。抱っこしてごらん」と言われても。

萌音は、ふるふる、と首を横に振った。

頑なに、妹に触れることを拒んだ。

父親の後ろに隠れて、妹の顔を見ようともしなかった。

そんな萌音の様子を見て、大人達は苦笑して「恥ずかしがってるのね」などと言っていたが。

本当は、恥ずかしがっているのではなかった。

萌音が抱いていたのは、その後の家庭環境を大きく揺るがすほどの、黒く、複雑な感情だった。