神に選ばれなかった者達 後編

…さて、そういう訳で、生まれてきた時から既に不穏な空気が漂っているが。

萌音の母親が退院し、萌音と共に家に帰った。

そこから、萌音の母による萌音への陰湿な虐待が幕を開ける…。

…なんてことにはならなかった。

そんな展開を期待してたか?残念だったな。

意外なことに、萌音母は、家に帰って赤ん坊の世話をするうちに。

段々と、愛着が湧いてきたらしく。

萌音のことを毛嫌いしていたのは、精々半月ほど。

それ以降は、萌音のことを可愛がるようになった。

元々、萌音母とて、「絶対男の子が良い!男の子じゃないと嫌!」と思っていた訳ではない。

男の子じゃなかったのは残念だったけど、女の子は女の子で可愛い。

そう思い始めたらしく。

生まれた時、あんなに嫌っていたのが嘘みたいに。

萌音に世話を焼き、大事に育てるようになった。

やれやれ、これで一件落着…だったら良かったのだが。

萌音の両親にとって、全く想定外だったのは。

萌音が赤ん坊の時の記憶を持っている、という点だった。

どんなに優しくされても、「大好きだよ」と言葉をかけられても。

萌音は覚えている。

生まれた時、男の子じゃなかったという理由で突き飛ばされたことを。

生まれてから一週間ほども、一度も母親に抱き上げてもらえなかったことを。

自分が生まれてきたことに対して、実の親に祝福してもらえなかったことを…。

その孤独を、虚しさを、萌音は覚えている。

これが原因だった。

このことが原因で、この後の家族としての関係が段々と拗れていくのだ。

…それでも。

実の両親と三人で、実家で暮らした僅か二年ほどの月日は。

萌音にとって、恐らく、一番幸福なヒビだったんじゃないだろうか。

勿論、その頃から萌音は既に、毎晩の悪夢と戦っていた。

だけどそれさえ抜きにすれば、萌音は両親に愛情たっぷりに育てられた、幸せな女の子だった。

出来ることならこれからもずっと、そんな風に生きていて欲しかった。

…残念ながら、そうはならなかった。

萌音が生まれてから二年後。

萌音の妹…件の真理亜が生まれたからだ。